今回の料理は牛肉とケイパーのトマト煮込みです。ケイパーはケッパーとも呼ばれ、和名をトゲフウチョウボクと言う、蔓のある植物の花芽や実の事です。酢漬けや塩漬けにしたものが販売されています。トゲフウチョウボクは、ヨーロッパ南部の地中海沿岸が原産地の、フウチョウボク科の低灌木で、地中海からイラン、アフガニスタンにかけて自生しています。葉っぱの形は丸くて、ちょっと小さめです。葉は厚みがあって、特徴的なのは、葉柄の付け根の部分に、和名にもある棘がある事です。春から夏にかけて蕾をつけ、この蕾を、まだ小さいうちに収穫し酢漬けや塩漬けにしたものが一般的にスーパーなどでも販売されているケイパーです。粒が小さく、丸い形をしているものが高級品だとされています。花は葉っぱよりも、少し大きな白や桃色の花で、とても美しいです。たくさんの長いおしべが花びらの外側に突き出るように並んでいます。種類によって、ピンク色から、紫をかなり帯びたものまであり、花びらとのコントラストがとても華やかです。観賞用にも育てられるようで、園芸店では稀に種が売られている事があります。花が咲くと実がなります。1cmから2-3cmくらいまでのサイズのものを収穫し、こちらもケイパーとし販売されるのですが、蕾のケイパーよりも何倍も高価です。トゲフウチョウボクは、なかなか結実しない植物なので、果実は貴重品だという訳です。食用として最初に利用した国はイランで、それがギリシャなどを経由してヨーロッパに伝わったようです。ヨーロッパでは、ケイパーには解毒や解熱作用、健胃の働きなどがあると言われています。ケイパーに含まれるケルセチンはポリフェノールの一種で、その抗酸化力はとても強力で、ビタミンEより強いと言われているそうです。また、ケルセチンには抗炎症作用があり、動脈硬化や高血圧を予防する働きがあり、体脂肪低減効果も確認されています。トクホの「特茶」にも多く含まれているのですよ。また、ケイパーにはカプリン酸があります。カプリン酸は、酸っぱい香りのある飽和脂肪酸で、この芳香が肉や魚特有の臭みを消します。このケイパーですがよく登場する料理はスモークサーモンですよね。アクアパッツァなどでも必ずと言って良いくらい使用されています。東欧では鶏や肉を煮込む時にも使われるようです。今回は牛肉を煮込む時の大事なアクセントとしてケイパーを使います。牛肉は肩の部分の塊を5cm角くらいに切り分けて使いました。脛肉などでも、煮込み時間を長くとれば大変美味しく作れます。その牛肩肉に、フライパンで焼き色を付け、肉は一旦取り出します。牛の旨味のでたフライパンで唐辛子とにんにくを炒めて香りを出します。更に野菜類も炒め、肉と合わせて、赤ワインとトマトの水煮とケイパーをいれて赤ワインも加え、炒め煮にしていきます。
この、牛肉とケイパーのトマト煮込みに、テイスティングメンバーが選んだイチオシワインはチェザーリ アマローネ デッラ ヴァルポリチェッラ クラッシコでした。チェザーリ社は北イタリアの東側、アドリア海に面したヴェネト州のヴェローナ近郊にあります。1936年の創業で1970年からアマローネをつくり出しました。アマローネとは陰干しした(アパッシメント=Appassimento)ぶどうでつくるヴァルポリチェッラで、イタリアのワイン法で最上位の格付であるD.O.C.G.にランクされるワインなのです。イタリアでは、陰干ししてつくるワインは各地にあり、呼び名が変わります。ロンバルディア州ではスフォルツァート=Sforzato、トスカーナ州ではヴィン サント=Vin Santo、ヴェネト州でも、ソアーヴェではレチョート=Reciotoと呼ばれています。竹で編んだ籠や藁、すのこなどの上に収穫したぶどうを並べ4ヶ月程度乾燥させて糖度を高めます。もちろん並べる前には、ぶどうが傷ついていないか、入念にチェックし、風乾中もカビなどが生えていないか、厳重に見守ります。少しでもカビが生えたものを放置すると、箱に入ったミカンのように、あっという間に、カビが広がるのです。糖度が、元の果汁の時の倍くらいまで高まったぶどうから醸されるワインは、まったりとした質感とチョコレートを思わせるような複雑さがあるのです。チェザーリ アマローネ クラッシコのぶどう品種はコルヴィーナ75%、ロンディネッラ20%、モリナーラ5%で、アルコール度数はなんと15%もあります。通常のワインよりも、少し早めに収穫され、4ヶ月の乾燥工程を経てから醸造されます。発酵後、ゆっくりと20日~30日間の長い時間をかけてマセレーション(醸し)を実施します。熟成はスラヴォニアンオークの大樽で80%、アリエ産のトノー樽で20%でおこなわれ、3年間寝かされます。グラスからは良く熟したフルーツの香りを感じます。ブラックチェリーやブラックベリーをジャムにしたようなニュアンスがあります。アタックは力があり、少しとろみを感じます。フルボディで濃いのですが、タンニンはなめらかで、シルキーなワインです。
牛肉とケイパーのトマト煮込みと合わせると、牛肉そのものの濃い旨味が強調されます。
「牛肉の香りに、ケイパーの独特の香りが良く合っています」
「うん、その香りと、チェザーリの濃厚な果実の香りとが良くマッチしているんですね」
「ケイパーとトマトで煮込まれる事で、ちょっぴりほろ苦さを持った、大人の味わいの煮込み料理になっていますよね。その味わいとチェザーリのたっぷりとしたコクとが合っています」
「アマローネの語源はアマーロ=Amaro=苦いなんです。苦いくらいに濃厚なところから、その名が与えられたと考えられています」
「苦さ繋がりですか・・・・、まさに大人の愉しみですね」
「私は、辛い料理がちょっと苦手なんですが、チェザーリと合わせると、辛さがすっと和らぎます」
「もとのぶどうの糖度を倍くらいまで上げて醸造していますから、赤ワインなのですが、残糖が少しあるのです。その糖が辛さを和らげるのですね」
魚料理の相棒のイメージがあるケイパーですが牛肉にも、とても良くマッチします。皆様も是非、牛肉とケイパーのトマト煮込みに挑戦してみてください。そしてチェザーリ アマローネ デッラ ヴァルポリチェッラ クラッシコとの抜群の相性をお愉しみくださいませ。