今回の料理は、金目鯛のポワレです。キンメダイは鯛の名前がついていますがマダイの仲間ではありません。マダイは、スズキ目タイ科なのに対してキンメダイはキンメダイ目キンメダイ科、自分自身の名前が「目」の代表名称になっている、ある意味由緒正しい魚なのです。美しい色の魚で、赤に朱色と金色が混ざった感じです。くりくりと、ぱっちりした大きな目が、ギラリと金色に光るので金目鯛の名前をもらいました。ちょうど、夜、猫に懐中電灯の光を当てた時に、目だけが光る、あの感じです。大きくなる魚で、豊洲市場でもまれに50cm位のものを見かけます。大きな魚のほうが、色が濃く、小型の金目は色が淡い傾向があります。深海に棲む魚で、水深200~800mの、海山や大陸棚の縁の深く落ち込むあたりに潜んでいます。太平洋、大西洋、インド洋の熱帯から温帯域に、世界的規模で広く分布しているそうですが、海外では積極的に食べないのか、日本以外の市場で見かけた事は、ほとんどありません。日本での漁獲高は、1990年代に1万トンを超えた年もあるのですが、徐々に減り、2010年代には5000トンに届かなくなりました。有名な産地は下田、稲取、銚子あたりです。下田は観光協会が音頭をとって「キンメダイ日本一」をアピールしています。稲取は「稲取キンメ」としてブランド化を図っています。旬は12~2月。肉厚でしっとりとした口当たりで、脂が皮の下だけではなく、筋肉中に細かく入っていますので、身がふっくらとしていて柔らかみがあります。今回は、その金目鯛をポワレにします。ポワレは、フライパンを使って、蒸し焼きにする料理です。フライパンを使って焼く調理方法にはポワレの他に、ソテーやムニエルがあります。ソテーは「Sauter」=「ジャンプする、飛び跳ねる」が語源で、フライパンをあおって炒める調理方法です。野菜炒めや、炒飯も料理技法としてはソテーの一種になります。ムニエルは「Munier」=「粉屋」が語源です。切り身全体に小麦粉をまぶして、バターで焼きます。シャンパンの原料ぶどうのムニエもピノ・ノワールよりも粉っぽい表皮なのでそう呼ばれます。ポワレは「poêle=深いフライパン、ストーブ」を意味するポワルからきていると言われます。材料をフライパンにいれスープストックを少し入れて蒸し焼きにするのが原点だったようです。現代では少し変化して、皮目をカリッと焼き、身の方はしっとりと仕上げる技法がポワレと呼ばれるようになりました。金目鯛の切り身に塩、こしょうをし、皮目にだけ小麦粉を軽く振ります。フライパンにバターを溶かし、皮から焼いていきます。皮がパリッとしたらひっくり返すのですが、皮目サイドから7割火を通して、裏返したら後の3割は余熱で火が通るイメージです。ソースは白ワインのバターソースです。2人前で200mlの白ワインを煮詰めながらバターを少しづつ加えて乳化させソースにしていきます。
さて、この金目鯛のポワレにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインは、なんと赤ワイン、それもボルドーのル オー メドック ド ラグランジュでした。ル オー メドック ド ラグランジュは前回のラムチョップのイチオシになったシャトー ラグランジュが醸す、お手頃価格のオー メドックのワインです。シャトー ラグランジュから南東に、約3kmくらい行ったキュサック村に3.2haの区画と、西に約4km行ったサン・ローランに10.2haの2つの区画を、シャトー ラグランジュが管理しています。この2つの畑のカベルネ・ソーヴィニヨンは樹齢40年を超え、力がありながらもキメ細かなタンニンをもったぶどうが出来ます。この2つの区画のワインとシャトー ラグランジュのサードワインに相当するワインが使われているのが、今回イチオシのル オー メドック ド ラグランジュなのです。カベルネ・ソーヴィニヨンが70%、メルロが30%で醸されています。ラグランジュの醸造棟に運ばれたぶどうは、光センサーシステムと手作業で丁寧に選果します。醸造は温度管理したステンレスタンクを使用し、マセラシオンは15日~3週間かけて行います。100%フレンチオーク樽で14ヶ月熟成。伝統的な方法で3ヶ月ごとに澱引きを行い、卵白による清澄を行います。グラスに注ぐと、ラズベリーレッドで、とても美しい色合いです。グラスからは華やかな香りが立ち昇ります。スグリや赤いさくらんぼを思わせる柔らかいニュアンスと、フレッシュハーブを連想させる涼やかな心地良さがあります。素直な凝縮感と、ピュアな果実味を持つ、ほど良い厚みのワインです。金目鯛のポワレと合わせると、金目鯛の旨味が素直に引き出されました。パリッと焼かれた皮の香りと、カベルネ・ソーヴィニヨンのスパイシーさや、樽の自然な風味とが、とても自然にマッチしています。
「白身魚ですが、赤も美味しい料理ですね」
「皮がカリッと焼かれると、少し動物的な薫香が出ます。その香りがあると、ぐっと赤ワインに寄り添うようになりますね」
「金目鯛は身の中に細かく脂肪が入ります。その豊かな動物性の脂肪がタンニンとが出会うと、たとえ白身魚の脂でも、甘味に転換するんです」
「ソースも濃厚で、カベルネ・ソーヴィニヨン主体のワインが、とてもまろやかに感じられました」
寒さが増すと、金目鯛の脂は更に乗ります。是非旬の、金目のポワレを作ってみてください。そしてラグランジュらしい、清楚でエレガントな、ル オー メドック ド ラグランジュと合わせてみて下さい。