今回の料理はポルチーニメンチカツ ブルーベリーソースです。ポルチーニ=porciniは英語で、イタリア語ではポルチーノ=porcino(複数形はポルチーニ)、フランス語ではセップ=cèpeです。ハラタケ目- イグチ科- ヤマドリタケ属のキノコで、華やかで複雑な魅力的な香りがあり、ヨーロッパでは、とても重要かつ高価なキノコです。イタリアやフランスで食べることは、もちろんみなさんはご存知だと思いますが、ポーランドやルーマニアなど東欧でも秋を彩る大事な食材です。生きた樹木の根に生える菌根菌なので、松茸同様、商業的な人工栽培には未だ成功していません。松茸よりも軸が太く、笠の裏の部分が、椎茸や松茸のようなひだひだではなく、キメの細かいスポンジのようになっています。笠の表の部分は淡い茶色のものが多いですが、真っ白のものや、濃い茶色もあります。かなり大きくなり、ごく稀には、子ども用の傘くらいのサイズになるものまであるそうです。旬は8月末から11月にかけてです。ボルドーに限らずワイン産地では「ワインの悪い年はポルチーニが良い」と言われます。ポルチーニはキノコですから、ぶどうには良くない、雨の多い年や湿度の高過ぎる年の方が生育に都合が良いのでしょうね。シャトー ラグランジュに程近い森にもセップ=ポルチーニが生えます。だいぶ前の記事ではありますが詳しくはこちらをご覧ください。
https://www.suntory.co.jp/wine/series/winerycg/20081113.html
記事中のラグランジュの椎名副会長のみならず、フランスでは、キノコ狩りはこの季節の重要な娯楽で、しばしば家族連れで森に行きます。今年、日本では、キノコ狩りでの事故や中毒の報道が頻繁にありましたが、毒キノコに関してはフランスでは全く気にしません。採ったキノコは薬局に持っていくと、無料で鑑定してもらえるからです。フランスの薬剤師は、キノコの毒について勉強することが義務付けられているのです。生をソテーやフライにしたものも非常に美味ですが、乾燥させると椎茸と同じように、ぐっと旨味が増します。今回は、その乾燥のポルチーニを合いびき肉にいれてメンチカツにします。ソースはブルーベリーで作ります。ブルーベリーはツツジ科の植物で、自家結実性が乏しいと言われています。自家結実性とは自分の花粉やほかの同一の品種の花粉で受粉する事が出来る性質で、ほとんどのぶどうや、ほぼ総ての柑橘類、ラズベリーやカシスなどは自分の花粉で受粉する事ができます。逆にブルーベリーのように自家結実性が乏しいものの代表は栗や日本梨などで、畑に複数の品種を栽培したり、受粉樹といって、他の樹に花粉を供給する為の樹を何本か植えます。ブルーベリーの旬は6月から8月で、今の季節ですと、フレッシュのものはニュージランド産やオーストラリア産など南半球のものです。また、ソース用なので冷凍でも全く問題ありません。いつものメンチカツもポルチーニでパワーアップ、さらにブルーベリーソースでご馳走料理にランクアップ出来る事、間違いなし!です!!
このポルチーニメンチカツ ブルーベリーソースにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインはジョルジュ デュブッフ ボジョレーヌーヴォー 2018でした。(実際の検証はヌーヴォー解禁日前に行ったため、味わいが近いジョルジュ デュブッフ ボジョレー 2016を使用しました。)
ブルゴーニュ地方の最南部に位置するボジョレー地区は北緯46度で夏暑く、冬は冷え込む半大陸性気候です。2013年のぶどう栽培面積は16,600ha、赤ワインの方が多くつくられる産地で、ピノ・ノワール主体のブルゴーニュの他のエリアと異なりガメが主に栽培されています。ボジョレー地区は大きく2つに分かれます。みずみずしく、軽やかで果実の香りが豊かなボジョレーを産する南部ボジョレーと、ボジョレーよりも肉付きがしっかりしたワインを産する北部ボジョレー ヴィラージュです。ヌーヴォーはこの2つのエリアから生まれます。そのボジョレーで「ボジョレーの帝王」と呼ばれる人がジョルジュ デュブッフ氏です。デュブッフ氏は常に
「赤い果実や花の香りが心地良く、
味わいは軽やかでフルーティ。
一口飲むだけで心が躍りだすような・・・・・
そう、言ってみれば、命の歓びにも似た、
そんなワインを、私はつくりたい」
と言い続けてきました。デュブッフ氏は1933年にプーイィ・フュイッセで生まれました。幼くして父をなくし、父替りの11歳年上の兄ロジェにぶどうづくりを教え込まれ、10歳のころには初めて、小さな区画のぶどう栽培を任されたそうです。デュブッフ氏は一生懸命努力をしました。丹念に丹念に、丹精こめてぶどうを育てました。でも、そのぶどうは近所の酔っ払いのおじさん達がいい加減に育てたぶどうと一緒にされて、発酵槽に投げ込まれました。この時デュブッフ氏は「努力した人がきちんとつくったぶどうから良いワインをつくり、そしてそれが正当に評価される仕組み」を作る事を決意したそうです。程なくデュブッフ氏のその卓越したテイスティング能力は人々に知られるようになりました。「一度嗅いだ香り、一度味わった味は絶対に忘れない」とまで言われるようになりました。22歳の時に仲買人の免許を取り、31歳の時にジョルジュ デュブッフ社を立ち上げました。1950年代頃のボジョレーは、瓶にも詰めてもらえず、リヨンあたりで樽から「ポ」と呼ばれるカラフェのような容器で販売されるワインでした。そのボジョレーを世界から認められるポジションにまで育て上げたのは、ひとえにデュブッフ氏の手腕のおかげでした。デュブッフ氏は、ボジョレーを仕掛けるのに、まずヌーヴォーに目をつけました。それまで、ただの村の収穫祭であったものに1967年から解禁日を設け11月15日と定めるよう働きかけました。解禁時刻の午前零時を合図にボジョレーからトラックが出発し、パリでLe Beaujolais nouveau est arrivè !!(ボジョレー ヌーヴォー ただ今到着!!)の告知ポスターを賑々しく貼り、イベントをおこないました。航空路の発達とともにニューヨークでも大流行、コンコルドで最初の荷物を送ったり、ロンドン・ニューヨークの街をヌーヴォー馬車で行進したりもしたそうです。そうして、ボジョレーは世界中の人々が愛する、心地良い果実味豊かなワインの代表格となったのです。
ヌーヴォーの解禁日はその後改定されて、11月の第3木曜日となりました。
今年のヌーヴォーはどんな味わいなのでしょうね?ジョルジュ デュブッフ社のアドリアン輸出部長からの情報では、今年はかなり期待出来そうです。実験では、ヌーヴォーではなく、もちろん通常のボジョレーを使い相性を確かめました。ポルチーニメンチカツ ブルーベリーソースと合わせると、素直な合いびき肉の美味しさがストレートに伝わってきます。滑らかなブルーベリーソースの爽やかさがボジョレーと出会うことで、はっきりと強調されます。カリッとした衣とコクのある肉汁とフレッシュな果実味が三位一体となった心地良いマリアージュでした。