今回の料理はトート トムヤムクン、タイ料理です。「トート」は「揚げる」なので、トムヤムクン風味の、海老を揚げた料理と言ったところでしょうか。海老は十脚目という、脚に相当する部分が、5対ある甲殻類のグループから、カニとヤドカリの仲間を除いたものです。幅広い種類が含まれていますが、どの種類も大体、とても美味しいです。人間はもちろん、魚も、イカやタコもみんな海老が大好きです。漢字では、伊勢海老などの大きいものを海老と表記し、小さい泳ぐエビを蝦と書くようですが、厳密な区分けが徹底されている訳ではありません。海老の名前は、その色からきており、ぶどうのような濃い赤紫を葡萄色(えびいろ)と呼びます。生の伊勢海老の色を思い浮かべていただくと、お判り頂けると思いますが、あの深みのある色です。今回は、その海老をタイ料理の揚げ物で頂きます。海老の種類はブラックタイガー、それも大振りのものを使いました。ブラックタイガーの和名はウシエビで、クルマエビの仲間では最も大きくなる種類です。築地でも時折30cm近い大きなものを見かけました。築地市場は、長年、首都圏の台所に新鮮な食品を提供してきた市場で、この原稿を書いている時に最後の営業日を迎え83年の歴史の幕を閉じました。海老は殻を剥いて背ワタを取ったらナンプラーをかけて馴染ませます。ソースはナンプラーとライム汁に砂糖を少々、それにレモングラスのスライスとこぶみかんの葉と唐辛子をいれて作ります。海老をカリッと揚げて、ソースをかけると、あら不思議、トムヤムクン風味の海老フライの出来上がりです。
このトート トムヤムクンにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインはドメーヌ バロン ド ロートシルト ボルドー レゼルブ スペシアルの白でした。ドメーヌ バロン ド ロートシルト社はボルドーの名門ネゴシアンです。メドックの1級シャトーのなかでも、特に筆頭に格付される「シャトー ラフィット・ロートシルト」など一流シャトーを世界に数多く所有するロートシルト家が経営しています。今年3月に44年間、オーナーを務めてきたエリック・ド・ロートシルト男爵から娘のサスキア・ド・ロートシルトさんに代替わりしたばかりです。同時に社長も、男爵とずっと二人三脚だったクリストフ・サラン氏からジャン・ギョーム・プラッツ氏に交代しました。ドメーヌ バロン ド ロートシルト ボルドー レゼルブ スペシアルの白は、主にアントル・ドゥー・メールとコート・ド・ボルドーの厳選されたぶどうから醸されます。ラベルにはロートシルト男爵家の象徴である「5本の矢の紋章」が描かれていて、とても印象的です。柑橘を思わせる軽やかで爽やかな香りが豊かで、特にグレープフルーツのイメージを感じます。口当たりも軽快な、心地良いボルドーブランなのです。トート トムヤムクンを食べて、グラスを鼻に近づけると、こぶみかんの香りが華やかさを増しているのに気がつきました。
「香りだけでも、マリアージュしています。明らかにハーブの香りが強まっています」
「生き生きとしたレモングラスの香りが強調されて、タイ料理感が満載になります!まさにトムヤンクンの海老をフライにした感じですよね!!」
ワインを口に入れると、ソースのライムの酸味とワインの爽やかさが共鳴しています。
「まるで柑橘の四重奏ですよね。ライム、みかん、グレープフルーツとレモン(グラス)で4つです」
「レモングラスの香り成分のシトラールはレモンの香り成分と同一の物質ですから、レモンそのものを思わせるニュアンスがありますね」
「辛さは、和らげる方向ではなく、強調されています。辛いもの好きには良い変化です」
皆様も海老フライを作られる時に、このタイ料理バージョンのトート トムヤムクンを思い出してください。そしてドメーヌ バロン ド ロートシルト ボルドー レゼルブ スペシアルの白とのマリアージュを是非お試しください。