今回の料理は漬けマグロとそら豆 レモンマスカルポーネです。マグロはスズキ目・サバ科に属する魚で、世界的に重要な食用魚のひとつです。マグロ属には本マグロとも呼ばれるタイヘイヨウクロマグロやメバチマグロ、キハダマグロ、ビンナガマグロ、タイセイヨウクロマグロなど8種が属しています。日本人は大昔からマグロを食べていたようで、縄文時代の貝塚からもマグロの骨が出土しています。マルハニチロさんの「回転寿司に関する消費者実態調査2015」によると、回転寿司の人気ネタは1位サーモン、2位マグロ中トロ、3位マグロ赤身、4位マグロ大トロです。マグロは凄い人気なんですね。水産庁のサイトにマグロに関する様々なデータが掲載されています。世界のかつお・まぐろ類漁獲量の推移(FAO統計)のマグロだけを見ると1983年に110万トンであったものが2015年に208万トンで32年間の間に1.9倍も漁獲しています。資源が枯渇するのも肯けます。マグロを獲っている国のランキングを見ると2015年ではインドネシアが首位で28.7万トン、日本は2位で18.0万トン、後は台湾が16.0万トン、メキシコ、スペインと続き、合計207.6万トンです。日本の魚種別データをみると2015年はキハダが一番多く5.8万トン、メバチが4.8万トン、ビンナガが4.7万トンでこのトップ3の順位は年によって入れ替わったりします。最高級のクロマグロは2.1万トン、そのほかミナミマグロ0.3万トン、タイセイヨウマグロ0.1万トンで合計18万トンです。タイヘイヨウクロマグロだけを見ると、自国産が2.4万トン(2016年農林水産省「産地水産物流通統計」)ですが消費量は4.7万トンなので自国産と同じくらいの量を輸入している事になります。自国産の内訳ですが、自国漁獲は1万トンに過ぎず、1.4万トンは養殖となっています。クロマグロに限って言うと、自力で漁獲しているのはわずか20%強しかないのです。輸入相手国はメキシコ、マルタ、クロアチア、スペインが上位です。マグロの資源は減っており「国際自然保護連合」(IUCN)は既に絶滅危惧種に指定していたミナミマグロ、タイセイヨウクロマグロ、メバチマグロに加えて、2014年にタイヘイヨウクロマグロを「軽度懸念」から「絶滅危惧2類」に警戒レベルを引き上げました。貴重な資源を守る為には管理が必要です。
でもマグロなどの広い海域を泳ぎ回る魚の資源を守るのは1国の努力だけでは難しいです。資源管理のために、まぐろ漁業の関係国が協力して対策を講じる必要があるので、マグロの種類及び回遊海域ごとに5つの地域漁業管理機関(RFMO)が設立されています。それぞれのRFMO加盟各国の合意のもとに、漁獲隻数や漁獲量、操業期間などの資源管理措置が実施されています。日本は、5つすべてのRFMOに加盟しています。日本にとって特に重要なのは、日本の排他的経済水域も含む水域を管理する中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)です。例えばWCPFC では30kg未満小型魚の漁獲量を2002‐2004年平均水準から「半減」する事を目標にしています。また、30kg以上の大型魚の漁獲量を2002‐2004年平均水準から増加させないためのあらゆる可能な措置を実施するとしていますが、まだ、資源は減り続けているようです。将来食卓からマグロが消えてしまう事の無いように更なる取り組みが必要なようです。厳しい状況のなか、2つ明るいニュースがあります。タイセイヨウクロマグロの資源量の回復のニュースと完全養殖の拡大です。タイセイヨウクロマグロはタイヘイヨウクロマグロよりも早く絶滅危惧種の指定を受けました。しかし30kg未満小型魚の採補、保持、水揚げを「原則禁止」するなど、太平洋よりも遥かに厳しい規制をしました。太平洋が半減、それも目標なのに対して、大西洋は禁止したのです。そうする事で資源量が回復し、その結果漁獲割り当てを増やす事ができたのです。これはクロマグロでも適切な規制をする事で資源量が回復するという素晴らしい実証です。太平洋も大西洋を見習っていきたいところですよね。完全養殖のほうは、近畿大学水産研究所が1970年から研究を開始し、2002年6月に完全養殖に成功しました。既に近大マグロの名前で販売されています。また大阪のグランドフロントに近大マグロ食べる事の出来る店舗が出店し大人気になりました。その後、生産量が徐々に増え、最近では、幼魚を他の養殖業者に出荷するまでになりました。是非完全養殖を増やしてもらいたいものです。
さて、今回のレシピでは、このマグロを漬けにします。ワインスクエアらしい工夫は、ソース代わりのレモンマスカルポーネです。仕上げにマスカルポーネチーズをのせて、すりおろしたレモンの皮をたっぷりとかけます。ポストハーベストの心配があるので、国産のレモンがお勧めです。輸入レモンを使う場合には食品も洗える食器用の洗剤で洗いましょう。食器用の洗剤の裏貼りを見ると、商品の用途欄に「野菜・果物」と明記してあるものがあるのです。それで良く洗えば大丈夫です。マスカルポーネチーズはイタリアの牛乳からつくるフレッシュチーズで、もともとはロンバルディアでつくられていましたが、いまではイタリア全土でつくられます。かつて一世を風靡したティラミスの材料として有名なチーズです。また副素材として、そら豆とくるみを使いました。
この漬けマグロとそら豆 レモンマスカルポーネにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインはドメーヌ ジェラール ミレ サンセール ブランでした。サンセールはロワール河上流部のサントル・ニヴェルネ地区にある著名なワイン産地です。赤白ロゼが許可されるAOCで、白ワインはソーヴィニヨン・ブランからつくられます。サンセールの土壌は粘土石灰質、石灰岩土壌、シレックス土壌の3種類に明確に分かれており、それぞれ異なるミネラル感あふれる味わいを生み出します。ジェラール ミレのドメーヌはビュエ村にあります。ビュエ村には有力な生産者が沢山あつまっています。「World Atlas of Wine」の著者であり、世界的権威のワイン評論家ヒュー ジョンソンも、サンセール14ヶ村の中でも、ビュエ村が最良の2村のひとつであると高く評価しています。ドメーヌ ジェラール ミレはそのビュエ村で6代にわたりワインづくりをおこなう家族経営のドメーヌです。現在は、ワイン醸造を専門的に学んだ6代目のスティーブが父親と一緒にワインづくりをしています。畑はリュットレゾネ(減農薬農法)で栽培しています。キャノピーマネージメント(樹冠管理)には細心の注意を払っています。キャノピーマネージメントというのは、例えば、ぶどうが熟す時期にぶどうの周りの葉っぱをむしる事などです。ソーヴィニヨン・ブランのソーヴィニヨンの語源はソバージュで、放って置くと葉っぱがもじゃもじゃ繁茂してしまうのです。この葉っぱがぶどうの房を覆い隠し、風通しが悪くなったり、房に充分な光があたらないと、果皮にメトキシピラジンが増加して緑っぽい風味のワインになってしまうのです。ドメーヌ ジェラール ミレではそのキャノピーマネージメントを徹底的に行う事で、メトキシピラジンは減らして、果皮に果実香が蓄えられるよう栽培しています。破砕後、果汁と果皮を4日間コールドマセラシオンし、心地良い果実香を充分に引き出してやります。その後ステンレスタンクで2~3週間アルコール発酵したのち、シュール リーを6~9ヶ月間おこないます。土壌毎、区画毎に別々に仕込み、タンクで熟成したものを最終テイスティングしながらブレンドしていきます。
香りは爽やかな柑橘系の香りが豊かです。レモンやライムなどの酸っぱそうな柑橘と熟したグレープフルーツのイメージがあります。フレッシュな白桃のニュアンスもあります。口に含むと、溌剌とした酸味が感じられます。本格的な辛口で、キレのある酸が豊かで、エレガントさを感じさせる透明感ある味わいのワインです。マグロと合わせると、マグロの風味とマスカルポーネチーズの味わいが自然に広がりました。
「マグロの味わいが引き立つ白ですね」
「マグロだから、軽めの赤がイチオシに選ばれると思っていました」
「魚でも身の赤い魚は、赤ワインがマリアージュの鉄則のひとつですからね」
「マグロとだけでも美味しいのですが、マスカルポーネチーズをたっぷりつけての方が更に相性良いです」
「マスカルポーネチーズの乳脂肪がサンセールの酸で一層美味しく感じられます」
「マグロの鉄っぽさはきちんと主張するのですが、浮く感じは全くしませんね。チーズの乳脂肪が繋ぐのでしょうかね」
「そら豆の個性的な香りが、更に強調されて、そら豆好きとしてはたまらないです」
マスカルポーネチーズを山羊のフレッシュチーズに変更したら、更に超弩級のマリアージュになるのでは?と思わせる素晴らしい相性でした。