今回の料理はカイパロー(タイの豚角煮)です。カイは卵、パローは色の濃いスープの煮込みの意味だそうです。タイではポピュラーな料理で、食堂や屋台でもよくあるそうです。ご飯にかけて食べるのが普通です。レシピ中にシーイウ ダム、シーイウ カオ、ナンプラー、などのタイの調味料が登場します。シーイウはしょうゆ、醤油です。発音が、ちょっと似ていますよね。大豆が主原料です。シーイウ カオのカオは白い色のことで、日本の醤油と味も似ていますので、代用していただいても大丈夫です。シーイウ ダムのダムは黒、つまり色の濃い、たまり醤油の事です。日本のたまり醤油とちょっと風味が異なり、黒蜜のような甘さもあります。手許に無いときには、たまり醤油大さじ1、砂糖大さじ1で代替可能です。ココナッツシュガーも黒糖、三温糖、砂糖などで代用可です。でも、ナンプラーだけは調達してくださいね。ナンプラーは、皆様もご存知のタイの魚醤です。主な原料はカタクチイワシで、魚の重量の30%から半分くらいの塩をいれて2年間くらい熟成させて作ります。ホテルのレストランから屋台まで、どこに行っても置いてあるポピュラーな調味料です。これだけは日本の調味料では代替が利きません。副素材には厚揚げを使いました。タイのスーパーでも豆腐は各種販売されています。なかには平仮名で「とうふ」と表示されているものまであります。厚揚げは日本で売られているものより大きく、豆腐2丁分くらいの大きさです。カイパローを作るコツは最初に炒める時に肉とゆで卵に良く味を入れる事です。にんにくと粗びき白こしょうを炒めて香りを出します。肉とゆで卵をいれて、調味料も全部入れて、絡めるように、ゆで卵の表面に色がつくくらいまで5分くらい炒めます。それに厚揚げをいれて1時間くらい煮込むのです。そうすると美しい色の付いた煮玉子になります。
この今回の料理カイパローにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインは驚きの「濃い旨ワイン」ダークホース ビッグ レッド ブレンドでした。昨年(2017年)春に新発売され、瞬く間に大ヒット商品になりました。先日、東京の府中で何軒かはしご酒をしたのですが、行く店行く店に、このダークホースがオンメニューされていてびっくりしました。さすが東京競馬場のお膝元、馬愛の強さに感心させられました。ワインメーカーはベス リストン、骨の髄から常識に囚われない醸造家です。一般的にアメリカワインは、品種を名乗るワインのほうが高級であると認識されています。産地も、より狭いエリアに限定されるほうが良いワインであるのが常識です。同じ生産者のワインの場合、カリフォルニア全域のワインよりもナパ ヴァレー、ナパ ヴァレー全域よりも、例えばスタッグスリープ限定のキュヴェのほうが高いのが普通です。今回イチオシのダークホース ビッグ レッド ブレンドは、なんと、7種のぶどう品種のブレンドでつくられています。ジンファンデル、カベルネ・ソーヴィニヨン、テンプラニーリョ、マルベック、シラー、メルロ、プティ・ヴェルドです。生産地もカリフォルニア、チリ、スペイン、アルゼンチンとそれこそ世界中のぶどう名産地のオンパレードなのです。彼女は自分のイメージに合うぶどうを探して世界中を旅します。彼女に「もっと狭い産地に限定したほうが、高級である事がお客様に伝わりやすいのではないのですか?」と尋ねた事があります。彼女の返事は「ワインの常識?関係ないね」でした。「ワイン法は遵守する、それは当然の事。でも、上級の産地の名前を名乗る為の線引きとか、ぶどう品種の名前を名乗る為の割合の線引きなんかは重視しない。それを守る事で、自分のイメージ通りのワインがつくれないのであれば、名前なんか要らないわ。本当に美味しいワインがつくりたいの」「挑戦が大好き。これからも常識破りで予想外なことに挑戦し続けるわよ」
グラスからは、黒い果実やカラメルのような甘い香りが漂ってきます。しっかりとタンニンを感じる、濃く豊かな旨さが魅力的です。多様な品種の特長が楽しめ、コクが脂を包み込み、どんな料理とも抜群に合います。
カイパローと合わせると、豚肉の肉質からの味わいと脂からのコク味、甘みが広がり、それをダークホースの充実した果実味ががっちりと受け止めます。料理の濃さとワインの濃さとの、力と力のぶつかりあい的な印象です。シラーに由来するのか、ワインから香ってくるスパイシーさがカイパローの粗びき白こしょうと共鳴しています。
「ほう、料理とワインの真っ向勝負というパターンですね」
「割と甘みを強く感じる料理です」
「ココナッツシュガーの甘みとシーイウ ダムのたまり醤油的な甘さがあります。こういった料理には普通ワインサイドにぶどうの完熟からくる厚みや濃さが必要です。ダークホースはしっかりと応えていますね」
「タイでは、屋台などで、これだけ食べて帰る人も多いです。一般的にのまれているお酒は、メコンウイスキーなどですね」
カイパローを食べて、ダークホースを合わせると、中盤から、ぐっと一体感がでて、両者の味が伸びる素敵な相性でした。