今回の料理は桜白ワインクリームソースです。日本人は桜が大好きです。現代では、単に花と言うと桜を指す事が多いです。桜は、バラ科サクラ亜科サクラ属サクラ亜属の植物の総称です。サクラ属は、実の真ん中に種が1個ある植物が多く、モモやアーモンド、ウメ、アンズもサクラ属です。桜は日本中に沢山植えられていて、各地にお花見の名所があります。本州だとソメイヨシノ、八重桜、河津桜、大島桜が多く、沖縄だと寒緋桜が見られます。桜が咲き出すと、心がウキウキし、「ああ、春になったなぁ」と、しみじみ思います。桜は食用にも使われます。サクランボはセイヨウミザクラやシナノミザクラの実です。葉っぱや花も食用に利用されます。葉を使うときには、大島桜が使われ、それを塩漬けにします。日本では伊豆の松崎で全国の三分の二以上を作っているそうです。花のほうは、八重桜で、やはり塩漬けにします。丹沢山地や長野、京都などで多く作られています。桜の花のお茶は、お祝い事、結婚とか結納の席に、緑茶のお茶の代りに提供されます。これは、大事な祝い事が「お茶を濁す」様な事態になってはいけない、という配慮から出されるものです。食用の桜の葉っぱや花には独特の良い香りがあります。生の葉や花にはほとんど感じられない、ちょっとバニラに似た香りです。皆さんも今度、桜餅を食べるときに、注意して嗅いでください。この物質はクマリンというポリフェノールで、血液をサラサラにする効果があるといわれています。そのため西洋では血栓防止薬などにも利用されています。また、抗菌効果もあるとされ、桜餅をくるんでいる葉は、その効果も狙ったのでしょうね。クマリンは、生の葉や花のなかには、匂いのしない「糖と結びついた形」で存在していますので、香りがありません。塩漬けする事で、クマリンとなって、あの心地良い香りがするのです。
今日はその塩蔵した桜の花をソースにします。主素材は真鯛です。真鯛も桜の季節には、桜鯛と呼ばれます。この季節、真鯛たちが産卵をしに、浅瀬にやってきて漁獲量が増えるので、旬のひとつの時期となるのです。桜鯛でややこしいのは、標準和名でサクラダイと呼ばれる別の魚がいる事です。真鯛はタイ科の魚ですが、サクラダイはハタ科の魚で大きさは18-20cmくらいの、まるで金魚みたいな鮮やかな朱色の魚です。白い斑点のあるものもいて、それはメスだそうです。駿河湾で鯵釣りをしていると、たまに掛かる事があります。今回のレシピはサクラダイではなく、真鯛の方をソテーします。必ず皮目を下に焼き色をしっかりつけます。ひっくり返して、白ワインで蒸し焼きにします。魚を取り出し、鯛の旨みの残ったフライパンで、桜の花を炒めてソースにします。生クリームを入れると美しいピンク色のソースになりました。
この鯛のソテー 桜白ワインクリームソースにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインはフォルタン リトラル シャルドネでした。このワインの製造元のフォルタン社は1987年の創業で、本社はセートにあります。かつて一世を風靡したヴァン ド ペイ ドックの品種名ワインは、フォルタン社のロベール スカリ社長の提唱によって誕生しました。いわば品種名ワインのフランスにおける先駆者なのです。セートはワインの大産地であるラングドック・ルーション地方の東端の大都市モンペリエから車で40分くらいの所にある港町です。別名『ラングドックのヴェネツィア』とも呼ばれる美しい街で、地中海とトー湖の間にはさまれた細長い地形をしています。トー湖は海跡湖で、砂嘴が細長く、ぐっと伸びて、反対側まで繋がって外海を遮断する壁になっています。砂嘴の長さは十数kmにもなるんですよ。ラングドック・ルーション地方にはトー湖のような海跡湖が沢山あり、製塩や牡蠣などの養殖が盛んです。このエリアは320日晴天が続く「地中海性気候」です。なんと日照時間は、あのチリより長いのです。2千年前から安定してワイン生産が行われている産地でしたが、輸送機関が発達していなかった頃には、美味しいワインをつくっても、大消費地であるパリや輸出先であるイギリスや北欧の国々に運ぶのが大変でした。さらに17世紀の頃には、地中海の入り口であるジブラルダル海峡はイギリス軍が押さえており、莫大な通行税を取り立てていました。そこで作られたのがミディ運河です。セートからトゥールーズのガロンヌ川まで総延長360kmにも及ぶ運河を掘ったのです。着工から15年もの歳月をかけて、1681年に完成しました。このミディ運河のおかげで、ラングドック・ルーション地方のワインは大消費地と繋がることが出来、繁栄してきたのです。
フォルタン リトラル シャルドネのリトラルは海岸沿いの意味です。地中海沿岸の畑のぶどうを使いました。太陽の光をたっぷり浴び、地中海からの涼しい風を受ける事で、穏やかな酸と豊かな果実味の絶妙なバランスのワインが出来るのです。ラベルには、サンルイ桟橋の突端にある灯台があしらわれています。トロピカルフルーツやハチミツのニュアンスがある果実味と滑らかな酸味が特長の、スムースでまろやかな味わいです。
鯛のソテーと合わせると、鯛の繊細な旨みがくっきりします。シャルドネのエレガントな味わいとも、大変良い相性です。
「鯛の味わいが愉しめますね」
「鯛は繊細で、飲み物サイドがあまり主張すると、邪魔になる時がありますが、このシャルドネは違いますね」
「ソースの生クリームとも良く合っています」
春は、天然の真鯛も、沢山獲れるので、価格も比較的安定しています。淡いピンクが美しい桜白ワインクリームソースを、是非作ってみてください。そしてフォルタン リトラル シャルドネとの絶妙の相性をお愉しみください。