今回の料理は鴨とリンゴときのこのパイです。今回の鴨は、合鴨を使いました。合鴨はアヒルにマガモを掛け合わせたものです。アヒルはそのマガモを飼いならし家禽にしたものです。先輩後輩がややこしいですが、DNA的には3つとも同じ種の範囲に入ります。アヒルの歴史は比較的古く、2000年位前のローマで始まったのではないか?と言われています。日本では真っ白いアヒルが多いですが、世界には様々な色や模様のアヒルがいます。アメリカのカユーガ種は瑠璃色と深緑の中間くらいの色で、光輝いています。フランスでよく育てられているルーアンアヒルはマガモやカルガモみたいな色合いです。飼い馴らされる過程で、体は大きくなり、ほとんど飛べなくなってしまいました。アヒルに良く似た家禽にガチョウがいます。ガチョウは雁を飼いならした家禽で、アヒルよりも歴史が古く、古代エジプトには飼育の記録があります。アヒルもガチョウも羽毛や肉、そしてフォアグラをつくるのに大変重要な鳥です。ガチョウでつくったフォアグラをフォアグラ ド オア。アヒルでつくったフォアグラをフォアグラ ド カナールと呼びわける事もあります。アヒルとガチョウは遠目には判別がつき難いですが、一般的には大きさが違います。アヒルは4㎏程度のものが多く、ガチョウは10㎏にもなるものもいます。口ばしの形は両者ともドナルドダックの形で、良く似ています。でも簡単に見分ける方法があります。アヒルは首が短く、ぱっと見た感じ、漢字の「乙」という字に似ています。一方、ガチョウは首が長く、ひらがなの「と」の字の雰囲気です。そこに気をつけて見ると簡単に見分けられるはずです。冒頭にもお話しましたが、合鴨はアヒルにマガモを掛け合わせたものです。2000年かけて、マガモをアヒルにして、最後にマガモ色を強くする感じなのでしょうかね・・・・・アヒルより野性味があり、コクがあるので日本では人気です。パイにするのに、リンゴと舞茸と栗をつかいました。栗はスーパーなどで売っているムキ栗で大丈夫ですが、最近は12月になっても冷蔵貯蔵した栗が販売されているのを時折見かけるようになりました。栗は冷蔵貯蔵すると甘みがぐっと増して美味しくなるのです。ソースはワインスクエアらしく、ワインを煮詰めた赤ワインソースを準備しました。
さて、この鴨とリンゴときのこのパイに、テイスティングメンバーが選んだイチオシワインはブシャール ペール エ フィス ジュヴレ・シャンベルタン "ムッシュ ジェラール セレクション"でした。ブシャール ペール エ フィス社は1731年創業の名門です。コート・ドールで最大級の自社畑を所有する生産で、自社畑産のぶどうからつくるドメーヌ部門と、ぶどうやワインを購入してつくるネゴシアン部門があり、いずれのワインも国際的に高い評価を受けています。"シャンベルタン"は日本人が知っているブルゴーニュワインでは高いポジションにあります。白では、シャブリ、赤ではロマネ・コンティとこのシャンベルタンが認知率上位の常連です。ナポレオンが愛したことでも有名で、高級ワインの代名詞とも言えます。ジュヴレの村は、そのシャンベルタン所在地なので、村名自体がジュヴレ・シャンベルタン村と呼ばれています。アンモナイトを含む石灰岩に粘土や酸化鉄を多く混じる土壌から生まれるワインは、土やスパイス、特にリコリス(甘草)を思わせる香りが強く、タンニン豊かで骨格のしっかりした力強い長期熟成型になります。
今回イチオシのジュヴレ・シャンベルタン "ムッシュ ジェラール セレクション"はブシャール社のワイン調達責任者であるジェラール・アーセンドゥー氏がセレクトしたワインをアッサンブラージュした、特別なジュヴレ・シャンベルタンです。ボトルには彼の名前を記したステッカーシールを貼っています。色はピノ・ノワールらしい明るいルビー色です。熟したプラムやブラックチェリーのような香りがあります。ジュヴレ・シャンベルタンに良く出てくるリコリスのニュアンスも感じられ、とても複雑です。鴨と合わせると、見事な相性を見せました。鴨のパイを齧ろうと口に近付けると、鴨らしい鉄っぽい香りがします。リンゴの甘い香りと、パイ生地からバターの香りも立ち昇ってきます。香りの段階で素敵なマリアージュが始まっているのがわかります。口に入れるとジュヴレ・シャンベルタンの土壌由来なのか、鉄っぽいニュアンスが呼応するように強まりました。
「これは美味しい!」
「鴨そのものと、ジュヴレ・シャンベルタンが、まさにぴったりです」
「こういう組み合わせを、本質的な相性の良さと言うんでしょうね」
「鴨自体の味わいもそうなんですが、火の入ったリンゴの果実味やパイ生地の上品なバターのニュアンスとも良く合っています」
「他の赤ワインも、相性の良いものが有るんですが、これは次元の違う美味しさですね」
皆様も是非、鴨とリンゴときのこのパイを作ってみてください。そして、ブルゴーニュの赤ワインのなかでも、鉄分の多い土壌のワイン、ジュヴレ・シャンベルタン、ニュイ・サンジョルジュ、コルトン、ポマールといったアペラシオンのワインと合わせてみてください。