今回の料理はローストチキン ブルーベリージャムの甘辛ソースです。2017年を締めくくるご馳走料理に、皆さんは何をつくりますか?今回のレシピはローストチキンで、ソースにワインスクエアらしいアレンジをしました。鶏は家畜の中でも古株のほうです。家畜の最古参は犬だと言われていますが、古すぎて起源がはっきりしません。「遺伝子時計」説では、なんと13万年以上だと主張する学者がいます。考古学的な証拠に基づく説もいろいろあります。何人もの学者がいくつもの学説を唱えていて、3万年以上から1万2千年前くらいまで、広い幅があります。二番手グループは、豚、羊、鶏のグループではないか?と言われていて、時期的には約8千年前と推測されています。鶏の祖先は現在もタイなど東南アジアの原野に棲息しているセキショクヤケイやハイイロヤケイだろうとされています。これらの鳥を飼い馴らし、交配して現在の鶏に繋がっていると考えらてれています。その後、中国にすぐに伝わりました。中国各地の8000年前頃の遺跡から、鶏の骨が多数出土しています。日本には弥生時代に伝わりました。今から2500年くらい前と言われています。鶏の埴輪もあるんですよ。古事記にも鶏の記述が出てきます。皆さんも天の岩戸の伝説はご存じだと思います。天照大神がスサノオノミコトのご乱行に呆れ果て、天の岩戸に姿を隠すと、地上が闇に包まれました。これは何とかせねば!と神々が集まり、いろいろ対策を打ちました。最後、アメノウマズメノミコトが肌も露わに踊り狂い、この楽しそうな騒ぎは何だろう?と天照大神が岩戸から出てきて世界は明るさを取り戻した、という、あの物語です。この時の神々の最初の対策が、常世長鳴鳥と言う名の鶏を国中から集めて、時を作り、天照大神に朝か?と勘違いさせようとするものでしたが、失敗に終わります。この史実でもわかるとおり、日本では食用より、声を楽しむ観賞用でした。ヨーロッパには2800年前にギリシャに、アメリカ大陸にはコロンブス以降に伝わりました。ヨーロッパでも鶏は食肉としてあまり重要なポジションではなかったようです。見直されるのは、いまから150年くらい前にオリエンタリズムがブームになった時に、再び中国から鶏が持ち込まれ、品種改良が盛んになってからです。白色レグホンもこの時期に作られました。日本で、クリスマスに鶏ももが定番になるきっかけは、フライドチキンのチェーンが日本に出店した頃だと言われているようです。それまで、日本在住のアメリカ人は、クリスマスのお祝い用の七面鳥を調達するのに苦労していました。そのチェーンのチキンを見て「これで良いじゃん!」と大挙して買いに来たのを見て、チェーンの方が「お!これは日本でも流行るのでは?」と推奨するようになった、と言う話です。ただ、この1号店の出店は大阪万博の会場なので、わたくしが中学1年生の時です。しかも万博は9月で終わっていますから、この節は2号店以降の話になります。自分の記憶では、小学生の時にクリスマスパーティーの存在を知って、父親に「うちもクリスマスパーティーやろうよ」とせがみました。父親には「うちは仏教徒だ」とけんもほろろに一蹴されました。その時に、母親が不憫に思ったのか鶏のももを焼いてくれたのです。今でも、その時の皿の上に鎮座ましていた鶏のももの記憶が鮮明にあります。1960年代の後半の関西に、「クリスマスに鶏」という風習が既にあったのか、たまたま母親が思いついただけなのかは判然とはしませんが、クリスマスのパーティーもどきで鶏のももを食べました。
さて、このローストチキン ブルーベリージャムの甘辛ソースに、テイスティングメンバーが選んだイチオシワインはロス ヴァスコス カルメネール グランド レゼルブでした。チリではスペイン人による征服後の16世紀からワインづくりが始まりました。現在のロス ヴァスコスがあるコルチャグア・ヴァレーにぶどうが植えられたのは1750年頃で、バスク地方出身のエチェニケ家によります。フランスにフィロキセラが侵入した1863年以降、チリでのぶどう栽培は急激に広がりました。1870年には9000ヘクタールだったチリのぶどう栽培面積は、1900年には4万ヘクタールもの広さになりました。1988年、ドメーヌ バロン ド ロートシルト(ラフィット)はエチェニケ家のワイナリーの経営権を取得します。エリック ド ロートシルト男爵は創始者に敬意を表して、「ロス ヴァスコス(バスク人の意)」という名前をつけました。土地の総面積は2200ヘクタールで、うち220ヘクタールでぶどう畑栽培していました。現在では面積640ヘクタールにまで作付面積を増やしました。ぶどう品種は、カベルネ・ソーヴィニヨン85%、カルメネール5%、シラー4%、マルベック1%、シャルドネ5%です。ロス ヴァスコス カルメネール グランド レゼルブは、カルメネール100%で醸されます。カルメネールはフィロキセラ前のボルドーではカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロを凌ぎ、最も多く栽培されていた品種だったのです。フランスがフィロキセラに蹂躙された時に、カルメネールはフィロキセラに極めて弱かったのと、熟すのに長い日数を要する為にボルドーでは栽培されなくなってしまいました。一方、シルベストーレ オチャガビアがフランスから多くの苗木をチリに持ち帰ったのは、フランスにフィロキセラがやってくる前だったのです。チリには、ぶどうの宿敵フィロキセラが入ってきていません。今でも畑の大部分は自分の根っこで健全に育っています。そうしてチリではカルメネールが生き延びたというわけです。しかしカルメネールは、平穏無事にチリで繁栄していた訳ではないのです。なんとメルロと勘違いされていたのです。メルロは開花後100日で収穫できます。一方カルメネールは120日以上かかります。メルロだと誤解されていたカルメネールはメルロと同じ時期に収穫されていました。当然未熟で青臭い「うまく完熟出来ないメルロ」だと思われていたのです。この誤解を晴らしたのがジャン・ミシェル・ブルシコ氏、1994年の事です。彼はDNA分析から、「このなかなか熟さないメルロ」がカルメネールである事を突き止めました。そうして本来必要な開花後の完熟期間を取るようになって、カルメネールはチリを代表する品種のひとつになったのです。色は紫を帯びた美しい深紅色です。グラスをまわすと、色の濃いチェリー、ブラックベリー、プラムなどの果実を思わせる香りが華やかに昇ってきます。口あたりは優しく、熟した果実のボリュームは豊かなのですが、タンニンは、まろやかで深みがあります。バランスがよく優美、カベルネ・ソーヴィニヨンとは方向性の違う充実感があるワインです。
ブルーベリージャムの甘辛ソースをたっぷりと付けてももにかぶりつきます。パリッとした皮の下から肉汁が溢れてソースと絡まりあいます。鶏の淡白な中にある奥深い味わいとブルーベリーの濃い果実味が見事に合っています。ロス ヴァスコス カルメネール グランド レゼルブと合わせると、鶏肉の旨みそのものと、カルメネールとがピッタリとマッチしています。
「お!これは、かなり良いですね」
「鶏の肉の味わいと、カルメネールの品種の特長とが良く合っているんだと思います」
「カベルネ・ソーヴィニヨンだと強すぎる時がありますからね」
ブルーベリージャムの煮詰められた甘みと、ロス ヴァスコスの凝縮した果実感も良いバランスです。
「ソースのコクにワインが負けていませんね」
「チリのワイン産地は、ぶどうが開花してから収穫までの間に一回も雨が降らない所が多く、ロス ヴァスコスがあるコルチャグアもそうなんですよ。豊かな光を浴びて完熟したぶどうの、自然な美味しさがソースと合っているのだと思います」
ローストチキンの時に合わせるワインは、赤だと軽やかなタイプを選ぶ事が多いと思います。鶏を食べる時、しかも凝縮感のあるワインを飲みたい時には、ブルーベリージャムの甘辛ソースを思い出してください。そしてワインはロス ヴァスコス カルメネール グランドレゼルブをお試しくださいませ。