今回の料理は、究極のシンプル牛すじ煮込みです。すじは、筋肉と骨格を繋ぐ腱の部分で、肉のいたる所にくっついています。膜状になっているものや、筋肉を保護するように包み込んでいるものもあります。主成分はコラーゲンで、線維状になっています。普通に焼いただけでは、固くて食べれませんので、お肉屋さんは丁寧に取り除きます。それを、すじ肉として売るのですが、大きく分けて3種類の部位が販売されています。ひとつはアキレス腱、それから横隔膜、もうひとつはお肉屋さんが塊肉を丁寧にトリミングした時にできる、大小様々なすじ肉です。アキレス腱は長さが25cmくらいで、中心に魚肉ソーセージくらいの太さの、丸くて丈夫な腱があります。韓国料理店でアキレスと呼ばれている部分です。横隔膜は呼吸する時に肺を膨らます筋肉と膜が合体した筋板です。筋肉部分はもちろん肉として販売されます。肋骨にくっついている側をハラミ、腰椎にくっついている側がサガリと呼ばれる部位です。そのほかの膜の部分はすじとして販売されます。普通のスーパーマーケットで見かける牛すじは3つめの塊肉をトリミングしてできたすじである事が多いです。大きさがまちまちなものが入っています。色が白っぽく輝いていて、平たく大きい部分は銀すじの可能性があります。銀すじはサーロインと背脂との間にあるすじで、すじの中では一番美味しい部位です。牛すじとして販売されているときには幅4-5cmくらいですが、もともとは幅20cmくらいある幅の広いすじです。サーロインの塊から、すじを横方向に削ぎ切りにすると、普通の肉牛のサーロインのサイズだと、切り取った幅が4-5cmになるからです。すじ自体も一番美味しいと言われているのですが、くっついている肉はサーロインですから、こちらも大変美味です。
牛すじは一度茹でこぼしてから、もう一度茹で、4時間ほど煮込みます。別の鍋で、にんにくを炒めて、セロリと玉ねぎの薄切りも炒めます。たっぷりの赤ワインをいれて、牛すじと茹で汁を少しいれて1時間ほど煮込みます。味付けは塩こしょうとタイムです。シンプルでしょ?時間はかかりますが、これでワインにとても良く合う牛すじ煮込みが出来上がります。
さて、この牛すじ煮込みに、テイスティングメンバーが選んだイチオシワインはサントリー塩尻ワイナリー 塩尻マスカット・ベーリーAでした。長野県塩尻でのぶどうづくりの歴史は古く、1690~1710年頃に甲州ぶどうが栽培されていたという伝承があります。ワインづくりでは、1902年に豊島理喜司が「信濃殖産会社」を創立して本格的なワインの醸造を開始しました。豊島理喜司の養父、新二郎は、なんと1879年に、早くも欧州系のぶどうの栽培に取り組んだ人です。理喜司は1890年には、欧米系品種やコンコード、ナイアガラなど30種類近いぶどうを育てていたそうです。そのなかで、寒さに強いコンコードが塩尻エリアの主力品種となっていきました。サントリーも1936年に塩尻ワイナリーを開設し、今日に繋がっていきます。
塩尻マスカット・ベーリーAをグラスに注ぐと明るいルビー色で光り輝いています。グラスに鼻を近づけると、イチゴを思わせる果実系の香りが鮮やかです。赤くて小さな花の印象もあります。わずかに大地をイメージさせる香りと、樽由来のロースト香がとけ合っています。口当たりは軽やかです。完熟した果実由来の甘やかさと、心地よい酸のバランスがとても良いワインです。
牛すじ煮込みと合わせると、牛すじのゼラチン質のねっとり感と、塩尻マスカット・ベーリーAの、程よい厚みとがぴったりとマッチしています。
「牛すじのコクが強いから、もうちょっと力強いワインに分があるかと思いましたが、塩尻マスカット・ベーリーAも丁度良い感じですね」
「料理とワインのマリアージュは、『料理がほんの少しだけ強い』が鉄則です。ワインが勝ると、出しゃばる感じになって、ちょっと良くないです」
「塩尻マスカット・ベーリーAの爽やかな酸が心地良いです。ねっとりする口の中がすっきりします」
「タイムの香りと、マスカット・ベーリーAの土っぽい香りとも良く合っています」
土曜日の買い物で、牛すじを見かけたら、日曜日用にお買い求めください。下茹でだけしておけば、翌日手早く、この究極のシンプル牛すじ煮込みが出来上がります。是非お試しください。