今回のレシピは、トマトのファルシーです。ファルシーは、例えばピーマンの肉詰めの様な「詰める」料理を指していますが和製のフランス語です。本来はfarce(ファルス)であるべき所が、なぜか日本ではファルシーで定着しました。英語ではstuffed(スタッフド)を使います。トマトはナス科ナス属の植物で南アメリカのアンデス高原のペルーやエクアドルあたりが原産と言われています。学名はSolanum lycopersicumです。lycopersicumは狼を指すギリシャ語のlycosとpersica=桃を合わせた名前、つまり「狼の桃」なのです。トマトをヨーロッパに伝えたのはスペイン人のエルナン コルテスだと言われています。この人はユーロ導入以前のスペインの1,000ペセタ紙幣の肖像にも描かれている人で、1519年にメキシコに上陸しアステカ文明が滅ぶ一因となりました。トマトは当初は観賞用で、食用になるのは1700年代のイタリアだったそうです。日本へは1600年代には伝わりましたが、やはり観賞用で、食べ始めたのは明治に入ってからの事です。トマトの名前はメキシコで今も使われているナワトル語のtomatl(トマトゥル)が語源です。ヨーロッパではトマトゥルから転じたtomateとも呼ばれますが、別の名前で呼ばれる事が多いです。なぜか学名では桃なのですが、リンゴなのです。イタリアでは金のリンゴ=ポモドール、フランスでは愛のリンゴ=ポム ダムール、イギリスでもラブ アップルです。今回はそのトマトで詰物を作ります。詰める物は合挽き肉とベーコン、玉ねぎとにんにく、味のアクセントはオレガノです。オレガノはトマトと、とっても相性が良いのです。
このトマトのファルシーにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインは、ロス ヴァスコスのロゼでした。ロス ヴァスコスはメドック格付け1級のシャトー ラフィットを擁するドメーヌ バロン ド ロートシルトが1988年から、チリでワインづくりに取り組んでいるワイナリーです。ロス ヴァスコス ロゼの品種はヴィンテージにもよりますが、ほとんどカベルネ・ソーヴィニヨンで醸されています。マリアージュ実験に使った2016年ヴィンテージではカベルネ・ソーヴィニヨンが90%、シラーが10%の配合比率です。手摘みで収穫して、さらに選果台で厳選に選果を行います。その後、果実を冷やしてから破砕し、発酵前のマセラシオンを行います。丁度良い位に色素が抽出されたら果皮と果汁を分けてステンレスのタンクで約3~4週間主発酵を行います。色は、少し明るく美しいロゼカラーです。ラズベリーやサクランボを連想させる香りがあります。少し時間が経つと甘やかでチャーミングな香りがふくらんでいきます。香りとはうらはらに味わいは男性的な味わいで、キレのある酸味と、ほんのりと感じられる渋味が味わいを引き締める本格的辛口ロゼワインです。
トマトのファルシーとロス ヴァスコスを合わせると、トマトの味わいが強調されました。トマトの熟れた果物のような香り、力強い緑の香りがロゼの果実の香りによって一層力強く感じられました。
「美味しいですね」
「トマトが、ロス ヴァスコスのロゼが持つベリー系の味わいとカベルネ・ソーヴィニヨンが持つ植物的な風味に共鳴していますね」
「中のお肉も美味しくなります」
「旨みが増幅しますね」
「トマトは旨みの源であるアミノ酸のグルタミン酸とアスパラギン酸、グアニル酸を豊富に含んでいますからね。」
しかも加熱する事でグルタミン酸やグアニル酸が増加し、リコピンも吸収されやすくなるそうです。
「トマトの色と、ロゼの色合いも、良く合っていて美しいですね」
美味しさが、細く、たなびくように長く続く自然な調和感があるマリアージュでした。