今回のレシピは、とうもろこしとクミンのかき揚げです。とうもろこしは漢字で書くと玉蜀黍です。玉蜀黍の後ろの部分の蜀黍(もろこし)はタカキビ=ソルガムの事で、五穀のひとつです。タカキビは房状の穂を付け、一房には2000粒から3000粒もの実が付きます。日本には15世紀頃に入ってきたと言われています。そして、「もろこし」は漢字で書くときに「唐土」の字が当てられていました。一方、とうもろこしはタカキビから約100年位遅れて日本に伝わりました。葉っぱの形や実の見た感じが、既にあった「もろこし」になんとなく似ていて、海外から入ってきたので、「とうもろこし」の名前になりました。本当はポルトガル人が持ち込んだのですが、当時は海外から伝わるものには、なんにでも「とう」=「唐」の名前を使っていました。ここで困った事がおきました。漢字表記です。順当に、とうもろこしに漢字を当てはめると唐唐土になってしまうのです。最初の唐は、とうもろこしの別の呼び名である玉黍から「玉」を1文字貰い、唐土のほうは別名の蜀黍に変えて玉蜀黍の文字が完成しました。字面からはとても読めない難読漢字ですよね。とうもろこしは葉脈がまっすぐな単子葉類でイネ科に属しています。原産地はグアテマラからメキシコ南部あたりで、1492年のコロンブスのアメリカ大陸到達の時にヨーロッパに持ち帰られました。世界三大穀物のひとつで非常に生産性の高い作物です。畑の良し悪しや栽培方法にもよりますが、1ha当たり10t程度収穫できます。小麦の3.5t、米の5-6tと比べると非常に効率良く栽培出来る事が判ります。その結果、現在では世界で最も栽培されている穀物となって、年間だいたい10億トンも生産されているのです。世界三大穀物の残りの2つは米と小麦です。米と小麦は、人間が食べる食用がほとんどですが、とうもろこしは飼料用が6割を超えるそうです。日本では直火で焼いて醤油を付けたり、茹でて塩味で食べる事の多いとうもろこしですが、フレッシュなとうもろこしをそのまま食べる国は少数派です。原産地である中央アメリカではとうもろこしを一旦石灰水で処理して作るマサを捏ねてトルティーヤを作ります。たんぱく質の少ないとうもろこしは強力粉のような粘り気のある生地になりません、なので石灰処理で粘りを出すのです。伝統的に小麦を食べていた国々では、乾燥させて粉にします。その粉に熱湯をかけるとお粥状になります、イタリアだとポレンタ、アフリカ南部だとパップ、サザ、シマ。アフリカ東部だとウガリ、ンシマなどと呼ばれます。パンに焼く場合は粘り気を出すため強力粉が混ぜられる事が多いようです。ご存知のコーンブレッドです。とうもろこしにはいろいろな種類があります。飼料用やコーンスターチをつくるのに使われるのは、馬歯種(デントコーン)、硬粒種(フリントコーン)で、そのまま食べるのは甘味種です。また、ポップコーンは爆裂種という別の種類でつくります。
今回は甘味種のとうもろこしをかき揚げにします。実を外す時に、手でむしると、揚げる時に弾け易くなってしまいます。油がはねて危険なので、必ず包丁で削ぎ落すようにして外しましょう。かき揚げのつなぎは小麦粉と片栗粉、味のポイントはクミンです。このとうもろこしとクミンのかき揚げにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインはロス ヴァスコス ソーヴィニヨン・ブランでした。ロス ヴァスコスはメドック格付け1級、しかも、その筆頭に選ばれているシャトー ラフィットを擁するドメーヌ バロン ド ロートシルトが1988年から、チリでワインづくりに取り組んでいるワイナリーです。エリック ド ロートシルト男爵はチリワインのポテンシャルの高さに気付き、最良の土地を探して何度もチリに足を運びました。彼が選んだのはサンティアゴの南200km、太平洋から40km、コルチャグア・ヴァレーのカニェテン盆地でした。元の所有者はバスク地方出身のエチェニケ家、1750年頃にはコルチャグア・ヴァレーにブドウを植えました。エリック ド ロートシルト男爵は当時の事を振り返って「チリで、新たな価値のパイオニアを目指す、本当にわくわくするプロジェクトだった。そのためにも、どうしてもとびきり優れた大地が必要だったんだ」と述べています。彼はバスク地方出身だったエチェニケ家に敬意を表し、ワイナリーの名前を「バスクの人々」を意味するロス ヴァスコスにしました。敷地面積はなんと2200haです。何年か前にロス ヴァスコスのワイナリーを訪問したことがあります。敷地内の丘に登ってワイナリー長のクローディオ・ナランホ氏にロス ヴァスコスの敷地がどの辺までか尋ねた事がありました。「この丘から見える範囲は全部ロス ヴァスコスの土地だ」というのが答でした。その桁外れの広さに驚いた事を良く覚えています。取得当時220 haだった栽培面積は現在640 haにまで増えました。このソーヴィニヨン・ブランは、冷涼な太平洋沿岸カサブランカやクリコで長期間契約を結んでいる畑で栽培されたブドウを用いて醸されます。ワインを注ぐとグラスから穏やかにグレープフルーツを思わせる香りが立ち昇り、アカシアなどの白い花の印象もあります。ソーヴィニヨン・ブランとしては香りの量は、やや控えめなタイプで、ナチュラルでエレガントな香りです。味わいはフレッシュでピュア、瑞々しい酸とミネラルの余韻が心地良いワインです。
かき揚げと合わせると、とうもろこしの甘さが際立ちます。
「最近のとうもろこしは甘くなりましたよね」
「最初に日本に入ってきた頃のとうもろこしは、ゴールデンバンタムで、糖度8%くらい、しかも、30℃くらいの暑い環境に置くと収穫してわずか数時間で、糖度がどんどん落ちていく作物だったのです」
私の大学生の頃だから、今から40年くらいも前、北海道旅行中に農家で畑の目の前で食べた「焼とうきび」が衝撃的に甘かったのはとれたてだったからなのでした。
「ピーターコーンが出てきたのが昭和60年代でしたよね。そのあとに出てきたのが、味来。甘くて驚きました」
「味来で12%くらい、今の最新品種は17%位のものまであって、しかも生食できるものもあります」
「ワインと合わせた時に、辛口の繊細なタイプの白ワインは、とうもろこしの甘さに力負けしている感じがします。辛口でもロス ヴァスコスのように骨格のしっかりしたタイプの方が美味しく感じますね」
「クミンの香りと、華やかな、香りのマリアージュをしています」
「ソーヴィニヨン・ブランの豊かな香りと出会うと、クミンの香りが爆発的に増えます」
「香ばしく、爽やかな香りにいだかれている感じです」
とうもろこしの美味しい季節です。是非一度作ってみてください。そしてロス ヴァスコスとのマリアージュをお楽しみください。