今回のレシピは、タイ料理の海老と豆の炒めもの、タイでのレシピ名はパット トゥアプー クンです。パットは「炒める」、クンはトムヤンクンのクン、つまり海老で、トゥアプーは四角豆と呼ばれる熱帯地方の豆です。四角豆は日本でも沖縄などでは、うりずん豆とかシカクマーミと呼ばれて割合ポピュラーなのですが、本州ではあまり見かけません。なので、今回は様々な種類の豆を使ってつくりました。マメ科は被子植物の大変大きな分類群で1万を越える種が属しているといわれています。普段皆さんが食べている豆達は当然属していますし、「えっ?これもマメ科なの!」と思うようなものも含まれています。レンゲやシロツメクサ、フジ、リコリス〈甘草〉なんかもマメ科なんですよ。マメ科の植物は食用以外にも農業にとって重要です。マメ科の一部には自分で肥料をつくる能力があるからです。それらのマメ科の植物は根や茎に根粒菌と共生する粒をつくり、根粒菌はその粒の中で植物から栄養を貰うかわりに空気中の窒素を植物が利用できる硝酸塩につくり変えます。この能力があるので、マメ科の植物は有機栽培やビオディナミの畑に緑肥として栽培されるのです。また、食品としての豆は栄養が豊富なので、やはり大変重要です。今回のレシピではそら豆、スナップエンドウ、モロッコインゲンを使いました。特にモロッコインゲンは四角豆と非常に近い属なので食感、味わいなどが似ています。フライパンにサラダ油とナンプリックパオを入れ、豆類を炒めます。ほぼ火が通ったら尻尾と頭を残して殻を剥いた海老を入れます。このレシピの味付けのポイントは最初に入れたナンプリックパオとココナッツミルクです。ナンプリックパオはタイの調味料で甘味や辛味、旨味を併せ持っています。日本ではチリインオイルと言う名称で販売されている事もあります。最近では大型のスーパーや、駅近くに良く出店しているコーヒーと食材を取り扱う店にも置いてあります。
この海老と豆の炒めもの パット トゥアプー クンにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインは、サントリー塩尻ワイナリー 塩尻メルロ ロゼでした。このロゼは塩尻メルロや塩尻ワイナリーのフラッグシップワインである岩垂原メルロを仕込む時に、仕上がりを濃くするために実施するセニエ(液抜き)によって得られた果汁を醸造したワインです。セニエをすると色や香りが濃くなるのは、こういう仕組みです。ワインの色や香りの要素のかなりの部分はぶどうの果皮に含まれています。ぶどうを破砕した時の分量を100として、果皮はそのまま100残して果汁を2割抜き取って80の果汁で発酵をおこなえば、少ない果汁に対して沢山の果皮がある事になります。計算上では25%多く香りや色の要素を抽出することができると言う訳です。セニエとは昔の医療用語で、血を抜く行為=瀉血を指しています。その当時、病気は体の中の悪い血が引き起こすと信じられていてセニエという療法が使われていました。ワインの醸造でも破砕した果汁を引き抜く作業がその瀉血に似ているのでセニエと呼ばれるようになりました。そのセニエの果汁は美しいピンク色で、本来、フラッグシップである岩垂原メルロなどになる非常に素性の良い果汁です。その果汁を白ワインの醸造のようにステンレスタンクで低温醗酵しました。新鮮な果実、ラズベリーやさくらんぼをイメージさせる香りがあります。赤いベリー類の果実を思わせるいきいきとした味わいが感じられ、余韻が爽やかに続く魅力的なロゼワインに仕上がっています。
海老と豆の炒めものと合わせると、塩尻メルロ ロゼの辛口でありながら、ほんのりと感じられる優しい甘さが、チリインオイルの辛さを和らげてくれます。強めの辛さが弱まる事で、海老の旨みをくっきりと見せてくれる感じがします。
「海老が美味しいです」
「辛口のシャルドネが、海老の身の味わいを引き立てる時とは違うパターンの合い方のように感じます。たとえばシャブリだったらワインサイドに甘みが無い事で、海老の素材自体が持つ甘みを引き出す感じで合いますよね。塩尻のロゼの場合は、わずかにある甘みが強い辛さの刺激を和らげて、辛さに覆い隠されていた海老の味わいを前面に押し出す感じの相性です」
「お豆も美味しく感じますね」
「塩尻地区のメルロには共通して茹でた小豆のようなニュアンスが出てきますから、豆類とも『似た者同士は良い相性』のパターンで美味しくなるんでしょうね」
これからの暑い季節にぴったりのタイ料理の海老と豆の炒めものに挑戦してみてください。