今回のレシピは、いわしのグリルです。日本で、いわしと言うと、一般的にマイワシ、カタクチイワシ、ウルメイワシの3つを指している事が多いです。魚の呼び名はヨーロッパのほうが大雑把な事が多いですが、いわしの場合は違っています。マイワシをフランス語ではサルディーヌ(sardines)カタクチイワシをアンショワ(anchois)と呼び、区別しています。ヨーロッパで買い物をしたり、レストランでメニューを読む時には、欧米の人たちには、この2つの魚は別物である事を頭に入れておく必要があります。日本では、アンチョビ(アンショワ)という言葉に「塩蔵または発酵させたいわし」の意味をふくんでしまっていますが、ヨーロッパでは単純にカタクチイワシを指しています。ですから塩蔵も発酵もしていないアンチョビの缶詰も販売されているのです。マイワシは漁獲量の変動が激しい魚です。カタクチイワシが年間40万トンから20万トンくらいの一定の幅で変化するのに対し、マイワシは最も不漁だった1965年にはたった9000トンしか獲れませんでした。1970年代の後半からグングン回復し、1980年代の頭には100万トンを超えました。100倍以上の激変です。当時は1967年施行の公害対策基本法のおかげで海がきれいになったからだ、とも言われました。その後1988年に449万トンでピークを迎えたのですが、そこからあれよあれよと漁獲高が激減し、2005年には2.8万トンにまで減ってしまいました。1970年代後半に大きく増えたのは海がきれいになったおかげではなく、魚種変動か、黒潮と親潮の流れの影響で、いわしのえさとなるプランクトンが豊富だったり、捕食者である大型の魚の北上が遅れたりしたのが原因ではないかと考えられています。ここ数年マイワシは増加傾向で、昨年もサンマ漁が解禁したばかりの北海道でサンマが不漁で、代わりに東北海道でマイワシが大漁だったというニュースが流れた事がありました。
今回はマイワシを使っていわしの塩焼きを作ります。写真では見えにくいですがマイワシは体側に星が7つ並んでいるのでナナツボシとも呼ばれます。旬はエリアによって微妙に違うのか、6月から初冬としているものや春から夏、夏から秋としている本もありました。今日のいわしは千葉県産の大ぶりのものです。塩をしっかり振り、オーブンで焼いていき、仕上げにエキストラバージンオリーブオイルをかけます。本当は炭を使い、網でグリルにしたいのですが、マンションなどでは無理がありますのでオーブンを使いました。このいわしのグリルにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインはポルトガルのヴィーニョヴェルデ、ガゼラでした。ヴィーニョ ヴェルデは直訳すると緑のワインで、ポルトガルの北部の大西洋岸のミーニョ地方で生産されます。皆さんも地名は聞いた事のあるポートワインの熟成地であるオポルトの街から北に上がりスペイン国境までのエリアです。ポルトガルで最も北のエリアですからポルトガルのなかでは冷涼な産地ですので、軽やかな辛口で、きりっとした酸が特長です。ぶどう品種はローレイロ 40% 、ペデルナン 30%、トラジュドゥーラー 15% 、アザル 15%。あまり耳慣れない品種ばかりですがポルトガルの地場品種です。ラベルはシルバーメタルで海をイメージしています。ラベルの下に書かれた“FRUTOS DO MAR”は、「海の幸」の意味だそうです。
「緑のワインなんですか?」
「色を表している、というよりは、フレッシュさを強調した表現ですね。色もほんのり緑をおびています」
爽やかな柑橘系を連想させる香りがあります。口に含むと軽やかで、かなり明確な泡を感じます。辛口でキレの良い酸が豊かです。
「爽やかですね!!」
「この新鮮で生き生きしたフレッシュ感が命のワインなんです」
「軽くて飲みやすいですね」
「アルコール度数も低いですよね」
「9%です、最近のチューハイでも高めのものはこれくらいありますからワインとしてはかなり軽めですね」
いわしとその脂の濃いコクをガゼラが、さらりと洗い流してくれます。エキストラバージンオリーブオイルの緑の香りとガゼラのフレッシュハーブを思わせる香りとも良く合っています。
「すごくしっくりきますね」
「ポルトガルでも、いわしの塩焼き(サルディーニャス・アサーダスsardinhas assadas)を良く食べます。初夏には漁港や浜辺にいわしの塩焼きの屋台が出たりするんですよ。そして、このヴィーニョ ヴェルデを合わせるのが定番なんです」
これから、ちょっと暑くなってくると、ヴィーニョ ヴェルデが、より美味しく感じられるシーズンです。大ぶりで新鮮ないわしを見つけたら、是非このガゼラと合わせてみてください。