今回のレシピは、秋刀魚の洋風炊き込みご飯です。秋刀魚は日本を代表する秋の味覚です。棒受け網漁の解禁が7月10日(釧路、根室の小型船10トン以上20トン未満)なので例年ならば8月上旬から魚屋さんに沢山並びだします。今年は、残念ながらまだ、そんなに多くは出回っていませんし、かなり高めのお値段です。大豊漁だった2012年2013年から様変わりです。2014年も不漁で、去年秋のニュースでは「前年の1/10」といっていました。今年も現在のところ同時期で前年に比べ約1/3とのことですので単純計算だと2013年の、なんと1/30ということになります。
今回のレシピは、今後漁が好転すると期待を込めて秋刀魚の洋風炊き込みご飯です。スープストックは使わず、秋刀魚自体から出る味わいと白ワイン、ドライトマトが味の骨格になります。秋刀魚は予めオーブンや魚焼きグリルで塩、クミンを振ってオリーブオイルをかけてから焼いておきます。にんにく、たまねぎをオリーブオイルで炒めて更にドライトマトと米を入れ炒めます。その米を土鍋に入れて秋刀魚とオリーブを乗せて炊き上げると出来上がりです。4人前が2尾で出来ますので秋刀魚が高値の今年向きのメニューかもしれません。この秋刀魚の洋風炊き込みご飯にテイスティングメンバーが選んだイチオシワインはバユオー ミュスカデ ド セーヴル エ メーヌ シュール・リー “ル マスター”でした。ドナシャン バユオー家は今から270年前にさかのぼることの出来る長い歴史と伝統を持つワイン生産者でした。現在はロワール地方を代表する名門ワイナリー アッカーマン社の傘下に入っています。A.O.C.ミュスカデはロワールの河口からわずか50kmに位置するナント市の東南に広がる23の村でつくられるミュスカデ種(ムロン・ド・ブルゴーニュ種)から醸される軽やかな辛口白ワインです。シュール・リーというのは醸造テクニックで、フランス語そのままの意味では「澱の上」です。ミュスカデではワイン発酵終了直前に、タンクを密閉し酵母である澱をそのままにしておきます。通常、酵母は糖を食べ、アルコールと二酸化炭素に分解することでエネルギーを得ています。タンクの糖分を食べつくすと酵母はエネルギーを得る為に酸素呼吸を始めます。タンクの中の酸素も使い尽くすとエネルギーを作る事が出来なくなって死んでしまいます。ここがシュール・リーの一つ目のポイントです。酵母がタンクの中の酸素を使い尽くす事によりミュスカデの繊細でフレッシュな香りが酸化されることなくワイン中に留まる事が出来るのです。酵母の死骸である澱は翌春までワインと接触している間に分解しワインの中に溶け出します。シュール・リーの二つ目のポイントはこれです。酵母の体はたんぱく質で、それが分解するとアミノ酸になります。そのアミノ酸の一部は旨味成分となり味わい深いワインになるという訳です。
炊き上がった土鍋の蓋を取ると秋刀魚の独特のコクを持った香りとお米のほんわりした香り、ドライトマトの甘酸っぱい香りなどが盛大に昇ってきて食欲をそそります。秋刀魚の洋風炊き込みご飯とバユオー ミュスカデ ド セーヴル エ メーヌ シュール・リー “ル マスター”を合わせると、秋刀魚の旨味をしっかり吸い込んだご飯と、軽やかなミュスカデが良く合っていました。
「しっくりきますね」
「どことどこが合ってる、って感じじゃないんだけど、自然にスッと合ってますよね」
「うん、自然体ですね」
「シュール・リーの旨味と秋刀魚から出ている出汁がうまく共鳴している感じです」
ミュスカデの爽やかな酸も秋刀魚に酢橘をぎゅっと搾った感じで、うまく調和していました。
今は未だ高い秋刀魚ですが、これから徐々に漁獲が増えて値段も下がってくるのを期待したいところです。ワインに良く合う炊き込みご飯、是非挑戦してみてください。