今回のレシピは、鯵とラディッシュとセロリのライムマリネ、一見難しそうな料理に見えますがお馴染みの鯵の南蛮漬けです!南蛮という言葉が生まれたのは中国で、漢の時代には、自分たち漢民族にとって「領土の外の野蛮人が住むエリアの中で南側の部分」を表わしていました。この言葉が日本に伝わった最初のころは、当然「蔑むニュアンス」が含まれていましたが、ポルトガルやスペインとの交易がはじまり、それを南蛮貿易と呼んだ16世紀以降、「南蛮渡来」は珍奇で少し有難味を持った、明治の頃の「舶来品」に近い意味合いを持ちました。南蛮漬けは鯵などの小魚を揚げて薄切り野菜と、合わせ酢に漬け込んだ料理です。魚の種類は何でも良いようですが、鯵が一番ポピュラーです。鯵と単純に言う場合、大体は真鯵を指します。マアジはスズキ目アジ科の魚で、鯵の語源は「味が良いから」と言われるくらい美味しい魚です。日本近海には広く分布し、年間を通して漁獲があります。年中美味しい魚ですが、いくつかの旬のカレンダーを見ると最も美味しい時期を春から夏としているものが多いようです。庶民にも親しみ深い魚ですが、今年(2015年)の2月は鯵の漁獲量が極端に少なく魚市場でもかなり高騰していました。春になり、少し回復しましたが、梅雨に入った今も、築地の市場を見る限り昨年の入荷よりも少ない感じがします。今回はその鯵をライムでマリネにします。野菜はラディッシュとセロリですが、お好みで変えていただいて結構です。
この鯵とラディッシュとセロリのライムマリネにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインはウィリアム フェーブル シャブリでした。ウィリアム フェーブルは1850年設立の歴史ある生産者です。1950年に現社名のもとになったウィリアム フェーブル氏が相続し、その後、積極的に畑を買い増ししました。その結果グランクリュが15.2ha、プルミエクリュが約12haに達し、グランクリュ面積最大のドメーヌとなりました。比類ない銘醸畑から生まれるワインは極めて高い評価で世界中から引く手あまたの人気ドメーヌとなったのです。しかしフェーブル氏には後継ぎがいませんでした。引退を表明すると買い手が殺到、その中で選ばれたのは、すでにブシャール社の改革を成功させていたシャンパーニュ「アンリオ」のジョゼフ アンリオ氏でした。ジョゼフ アンリオ氏はシャンパンメゾンのアンリオ家に1936年に生まれ、20歳でメゾン アンリオの社長になりました。その後モエ エ シャンドンの副社長、ヴーヴ クリコの社長などを歴任、一時期低迷したヴーヴ クリコ ブランドを世界第2のブランドに押し上げ、モエ エ シャンドンの副社長時代にはヨットのアメリカス カップのオフィシャル スポンサーになるなど、「ブランドビジネスとは何か!」を知り尽くした人でした。1994年にメゾン アンリオに戻り、1995年にブシャール ペール エ フィスを買収、1998年には本日イチオシに選ばれたウィリアム フェーブルの経営にものりだしました。この3つのブランドに共通するのは、派手な宣伝広告活動を全く行わないことです。ブランドビジネスの真髄を知り尽くした男は最後に「真に良いものを作り続ければ、かならずお客様に伝わる」という心境に達したのです。今年の春、ジョゼフ アンリオ氏は79年の生涯を閉じました。ワイン界の巨人に敬意を表するとともに、心からご冥福をお祈りいたします。
グラスに注ぐと、レモンやライムなどの涼しげな酸を連想させる香りがあります。非常にピュアな香りです。口に含むと、潔い辛口で、切れのある酸が豊かです。引き締まった味わいで余韻は長く、後口にミネラルのほろ苦さと、わずかにしょっぱさを感じさせるワインです。鯵とラディッシュとセロリのライムマリネと合わせると、鯵の味わいがくっきりと明確に感じ取れました。
「美味しいですね!」
「やはり、と言うか予想通りというか、鯵が活きる組み合わせですね」
「シャブリと合わせると、クセのない旨みの奥にある深い深いコクまではっきりと見えてきます」
「フェーブルは普通のメゾンのシャブリクラスですら、手摘みにこだわっています。しかも、さらに醸造所で、手で傷ついた粒を取り除く選果まで実施しているのです。だから物凄くピュアなんです」
「普通のシャブリって、機械収穫をするところが多いんですよね?」
「収穫の時期はどうしても集中します。収穫人を十分に確保できないところは機械収穫に頼らざるを得ないんです」
「このピュアさがあるからこそ、鯵の繊細な味わいがくっきり見えてくるんですね!!」
「揚げた衣の香ばしいニュアンスにも良くあっています」
マリネ液の酸を穀物酢ではなく、ライムにしたのも、シャブリとの相性をより高めた要素かもしれません。
初夏を彩る鯵のマリネとフェーブル シャブリ、是非お試しくださいませ。