今回のレシピは、タイのタイ料理、いえ、タイ料理のタイ、いえいえ、決してしゃれではありません、タイ料理の「鯛のハーブ蒸し」です!タイは一般的にはスズキ目タイ科に属する魚全般を指しますが今回はその中でも真鯛を使いました。真鯛はタイ科のマダイ属で北海道以南、東シナ海、南シナ海まで広く分布しています。南半球のオーストラリアにも外見はマダイそっくりで味も変らないゴウシュウマダイが生息しています。大物が結構沢山居るようで、ゴールドコーストなどから船釣りに出かけると、大物のマダイが結構釣れます。面白いのは日本人的には「やったぁ大きな鯛だ!!」と、嬉しいのですが、現地の船頭さんは「なんだ、レッドスナッパーか・・・」と、「またこいつか・・・」扱いなのです。所変れば価値観が違うんですね。今回はその真鯛をタイ料理でハーブ蒸しにします。料理方法は極めてシンプルで、二回に分けて蒸して、その間にタレ用の素材を混ぜて掛けるだけです。これで極上のタイ料理、ワインに良く合う鯛のハーブ蒸しが出来るのです。特別な材料はプリッキーヌとカーとレモングラスとこぶみかんの葉です。プリッキーヌは鷹の爪で代用可能ですし、カーは生姜で大丈夫。こぶみかんの葉は乾物でも大丈夫ですから一度買っておくと日持ちします。レモングラスのフレッシュな物は東南アジア系の食材店やネットショップでないと手に入り難いかも知れません。ドライのレモングラスならば、こぶみかんの葉同様に長持ちします。最近はレモングラスの苗をホームセンターで見かける事もあります。露地でも肥沃な土壌で、水遣りをきちんとすれば、夏場にはぐんぐん育ちますし、秋に鉢に植え替えて暖かい窓辺に置けばそのまま越年も可能です。タイ料理だけでなくハーブティーにも使えて便利です。フレッシュのレモングラスだと味わいや香りがより鮮烈になります。
この鯛のハーブ蒸しにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインはウィリアム フェーブル シャブリでした。ウィリアム フェーブル社は1850年の創業、ワイナリーは7つのグランクリュを間近に望むセラン川のほとりにあります。前のオーナーであるウィリアム フェーブル氏の時代にはワインはドメーヌ ド ラ マラディエールの名前で販売されていました。ウィリアム フェーブル氏にはご子息が居らず1998年にジョセフ アンリオ氏に引き継がれました。アンリオ氏は当時弱冠31歳のディディエ セギエ氏を醸造長に抜擢しました。ディディエ セギエはすぐに改革に取り組みました。まず、総ての収穫を手摘みに、それも13kg入りの小型プラスチックケースを使用しました。当時、シャブリの地域には他にプラスチックケースを使っている生産者は無かったそうです。醸造設備も一新しました。完全温度管理の小型のステンレス発酵槽を導入し、小さな区画を細分化して醸造できるようにしました。ポンプの使用をできるだけ避け、果汁の移動は重力を利用しダメージを出来るだけ軽減しました。更に、前のオーナーの時代には多用していた樽熟成の割合を減らし、新樽の使用も出来るだけ控えるようにして、シャブリならではのミネラル感とフレッシュさを生かすようにしました。こういった改革の成果で、フェーブルの名声は瞬く間に上がっていったのです。今年の春、久しぶりにワイナリーを訪れると、以前にもまして醸造タンクの小型化が進められ、瓶詰め設備も更に新しいものになっていました。あらゆる工程を見直し、酸素を出来るだけ排除するよう磨き上げられていました。
清々しい柑橘類を思わせる香りがあります。口に運ぶと、ピュアな印象、果実の完熟からくる甘さと凛とした切れのある酸が特徴的です。シャブリ特有のミネラル感が豊かで美しい余韻が細く長く続くエレガントなワインです。
鯛のハーブ蒸しと合わせると、鯛の繊細な味わいや素材が持つほんのりとした甘さがシャブリによって際立って見えた気がしました。鯛の潮のミネラル感とシャブリのもつ独特のミネラリーなニュアンスとがお互いを高め合っていました。
「繊細な料理と、繊細なワイン・・・・・」
「シンプルな蒸し料理だからこそ活きる素材の持ち味です、それが、シャブリのピュアな味わいで、より、くっきりと見えてきますね」
「うん、カーやハーブも味を付ける感じじゃなくって、彩りを添えるだけくらいの控えめなタッチだよね」
「タイ料理の、このシンプルに素材に向き合う姿勢は和食に通じるものがありますね」
「使うハーブや調味料は違うけれど、根底に流れるものは同じです」
シンプル&エレガント、鯛とウィリアム フェーブル シャブリの底力を再認識したマリアージュ実験でした。今回は小ぶりの養殖でない鯛を使いましたが、養殖の鯛でもこのレシピなら爽やかなハーブやカーが効いて爽やかに食べる事が出来ます。