今回のレシピは、赤玉ミートソーススパゲッティです。ミートソーススパゲッティは昔から日本で作られていたスパゲッティとしては、ナポリタンと並ぶ二大巨頭です。ミートソーススパゲッティを日本で最初に出した料理店がどこか?については、いくつか説があるようですが、宝塚説と新潟説が有力です。また、商業ベースで缶詰のミートソースが発売されたのは1959年の事で、それ以来、家庭でも広く作られるようになっていったようです。一方今回のミートソースの味わいのキーとなっている赤玉は1907年に発売されました。この頃、日本でも本格的な辛口の白ワインや渋味のある赤ワイン造りに取り組む生産者も居たのですが、当時の日本人には、味わいが、なかなか受け入れられませんでした。赤玉は、赤ワインに甘味を持たせる事で、酸と甘味のバランスがとても良く、渋味も気にならないワインでした。甘やかな風味、ハイカラなムード、巧みな宣伝で当時のワインの味に、まだ馴れていなかった人々にも瞬く間に受け入れられたのでした。発売当時の価格は38銭、ものの本によると、明治40年のもりそばが3銭、えんぴつ1本が2厘だった時代ですから高価なものだったようです。朝の連続ドラマでも取り上げられましたが、赤玉の大ヒットはサントリーがウイスキー造りに取り組む礎になったのでした。発売から既に100年以上経つロングセラーです。ナイトキャップで楽しんだり、ソーダや果汁で割って赤玉パンチやサングリアにしたりしても、とても美味しいです。また、料理用に使われる事も多く、焼肉チェーンのタレの隠し味になっていたり、日本三大モツ煮込みの一店と呼ばれる名店でも煮込みに使われていたりします。今回は鈴木薫先生にお願いして赤玉ミートソースのスペシャルレシピを作っていただきました。4人分で赤玉を200cc使います。ほんのり甘味があってコク深い味わいです。
この赤玉ミートソーススパゲッティにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインはコステルス デル プリオールでした。コステルス デル プリオールはフレシネグループがスペインにたった2つしかない最高格付けDOCaであるプリオラートで手がけるモランダ ワイナリーのワインです。プリオラートは最近スペインで最も注目されている産地のひとつですが、ワイン評論家のヒュー ジョンソンはワールド アトラス オブ ワインの第6版で、「ごく最近急速に注目を集めるようになった」と言っています。プリオラートの紹介の冒頭で「1990年に州政府が刊行したカタルーニャ・ワイン1000年史という大著があるが、この中でプリオラートは言及さえされていない。だが1990年代後半、この小さなワイン産地はスペインで最も有名で最も高価なワインを算出するようになった」と記しています。僅か20数年で飛躍的な進化を遂げた事になります。更に古いワールド アトラス オブ ワインの初版本(1977年発行)には、プリオラートの紹介は、たった一行「プリオラートは強い辛口赤の名前」とだけ記されており、プリオラートがあまり有力な産地では無かった事が判ります。その本の地図を見ると当時のプリオラートは現在のモンサンDOCも包括して、ひとつの生産地として認識されていました。現在ではこの2つは分けられ、モンサンがプリオラートをぐるりと取り囲むような位置関係になっています。夏は猛暑で40度を超える事も度々あり、冬は寒さ厳しく氷点下になる。そして雨はほとんど降らない、というブドウを栽培するには非常に困難な環境です。プリオラートの特徴的な土壌はリコレリャと呼ばれるスレート泥板岩です。この薄く剥がれ易い石には、たまに降る貴重な雨を地下深く浸み込ませる力があるのです。このおかげで地中深く根が伸びたブドウの樹は極めて雨が少ない環境でも枯れないのです。しかし深く根を下ろしたおとなの樹は枯れなくても、幼い樹は枯れてしまいます。ですからプリオラートでは4年を迎えるまでは灌漑が法律で許されているのです。この極めて厳しい環境こそが、濃く凝縮感のあるワインを造る原動力となっているのです。コステルス デル プリオールに使用されるブドウはガルナッチャ 50%とカリニェナ 50%です。樽熟成は100%フレンチオーク樽で12ヶ月行われます。よく熟れたプラムのような香りや、樽由来のバニラ香を思わせる香りが感じられます。口にいれると非常に濃厚な果実味、心地よい酸味、タンニン分もしっかり感じられる力強いワインです。
赤玉ミートソーススパゲッティと合わせると牛肉の旨味と赤玉の優しい甘味がからまり合ったミートソースにコステルス デル プリオールの濃さとコクとがぴったり合っていました。ワインのスパイシーさとミートソースにたっぷりめに使われているナツメグやオレガノ、黒こしょうなどもお互いが共鳴するように素敵なハーモニーを奏でていました。
料理に使っても美味しい赤玉の底力を再認識したマリアージュでした。