今回のレシピはカリカリ豚のクミンロースト スイカとリコッタチーズのサラダ添えです。スイカをローストポークの付け合せにしたのは鈴木薫先生の自由な発想の賜物です。ローストポークのポイントは2つ、スパイスの香とカリカリとした食感です。スパイスはクミンとタイム。パリッとさせるコツは最後の仕上げのオーブン前に塗る、はちみつです。付け合せはルッコラ、イタパセ、リコッタチーズと、そう!スイカです!!
オーブンを開けるとクミンの独特のスパイシーな香りが立ち上ります。クミンにはクミンアルデヒドやクミンアルコールが含まれていて、特有のクミンの香りを形作っています。日本のカレー粉には必ずと言って良い位、使用されていますのでカレーの香りの連想にもつながっていきます。そして蜂蜜の焦げた甘い香り、豚肉の焼ける良い香り・・・・
この絶品カリカリ豚のクミンローストにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインはなんと、マドンナ!!2回続けてのイチオシ獲得は長いワインスクエアの料理とワインの掲載の中でも初めてのことです!!!
前回、マドンナの由来である「マドンナ物語」の一部をお話させていただきました。正式名称がファルケンベルクリープフラウミルヒ <マドンナ>であること。リープフラウミルヒが「聖母の乳」という意味であることや、土の中に埋まっていた、その聖母像がファルケンベルク社の畑に今なお祭られているあたりまでは、お話させていただきました。今回はその続きをお伝えいたします。P.J.ファルケンベルクは畑を再建し畑の祠に聖母像を祀りリープフラウミルヒの品質に磨きをかけました。19世紀の半ばには「この聖母のミルクのように甘やかなワイン」リープフラウミルヒはドイツワインの代名詞と言えるほどになっていました。文豪ヴィクトル・ユゴーは1838年の友人宛の手紙に「このリープフラウミルヒを飲むためだけでも、再びこの地に来たいものだ」と記しています。またイギリスの文豪チャールズ・ディケンズはP.J.ファルケンベルクの孫と親交が深く、1846年の手紙には、その素晴らしいワインについての記述もみられます。
次第しだいにリープフラウミルヒの名声は高まり、それとともにリープフラウミルヒの名前を使ってワインを販売する醸造元も増えていきました。聖母教会の周辺のみならずラインヘッセンの外までも広がっていき、ファルツやナーエ、そして最高の銘醸地と言われるラインガウにさえリープフラウミルヒの名でワインを売る醸造元が現れるほどだったのです。ドイツでは1908年にワイン法を制定するにあたり、関係者に諮問をしています、ファルケンベルク社もリープフラウミルヒの名称の取り扱いに関して諮問を受けています。「リープフラウミルヒの元祖である御社はリープフラウミルヒの名称を本来の聖母教会の周辺の畑のみに限定するべきか、それとも広い需要に応えるため、より広い概念として残すべきか、どう考えるか?」ファルケンベルク社では、もし自分たちの利益だけを考えて聖母教会の周辺の畑のみに限定したら、すでにその名前を使って商売をしている醸造元が得ていた利益を失うであろう、と考え後者を選んだのです。こうしてリープフラウミルヒはラインヘッセン、ファルツ、ナーエ、ラインガウの4つの地域で使用可能な名称になったのです。元祖であるファルケンベルク社は、その正統性を示すため掘り起こされた聖母像にちなんでマドンナと称するようになりました。その正統派ファルケンベルクリープフラウミルヒ <マドンナ>が今回もイチオシワインなのです。
クミンローストとあわせます。ボリュームのある豚肉にナイフを入れると、肉汁が溢れてきます。肉をかじると、クミンシードからクミンの良い香りがしてきます。マドンナの甘い香りがクミンとぴったりマッチしています。
「クミンの香りって、独特ですよね、カレーっぽくもあるし、ちょっと動物っぽさもあって、これがマドンナの香りと合っていますね。」
「スイカと豚を合わせると、スイカの甘さは全く気になりません。」
「マドンナとスイカとあわせると、スイカが緑のニュアンスを出して、瓜であることを主張します。」
「白瓜と豚肉の炒め物ってありますけれど、それより、上です」
「豚とスイカとマドンナ、甘さのレベルも丁度良く合っていて、更に酸が効いていて美味しいです。」
確かに、豚肉とドイツワインの甘酸っぱい味わいが良く合っています。
「マドンナは豚肉の、特に脂に合っている気がします」
「マドンナが更に美味しく感じるマッチングですね」
満場一致でマドンナがイチオシに選ばれたカリカリ豚のクミンローストとのマリアージュでした。