今回のレシピは、うなぎの赤ワイン煮です。うなぎは日本人には大変馴染み深い魚です。万葉集で大伴家持がうなぎに関する歌を二首詠んでいます。そのうちの一首は
石麻呂に吾(あれ)もの申す夏やせによしといふ物そむなぎ取り食せ(めせ)
というもので、意味はお判りかとはおもいますが、「石麻呂さん、あなたにお伝えしたい事があります。うなぎは夏痩せに良いから、お召し上がりになったほうが良いですよ。」と言ったような内容です。この当時からうなぎはスタミナ食だったんですね。
日本人の夏に大切な、うなぎですが、食べ方のバリエーションは偏りがあります。推測ではありますが、90%以上は蒲焼(鰻丼、ひつまぶしを含む)で食べられているのではないでしょうか?次いで白焼き、う巻き 、うざくと言ったところでしょうか。海外では中華の広東料理で登場します。豆鼓で炒めたり、鍋焼河鰻といって蒸して骨抜きをしたうなぎを鍋で焼く料理があります。フランス料理にもうなぎは使われます。マトロットダンギーユMatelote d'anguille、ロワールの伝統料理でうなぎの赤ワイン煮、うなぎをぶつ切りにして赤ワインと煮込んだ料理です。日本ソムリエ協会のソムリエ教本には「シノンの赤と合わせる」と、あります。カベルネ・フランの少し緑の印象のある風味と良く合う料理なのですが、今回はそのイメージをワインスクエア流でレシピにしてもらいました。フランスでは筒のままのうなぎをぶつぶつ切って使いますが、日本のスーパーでは一匹丸ごとのうなぎは、まず見かける事がありません。ですから今回のレシピでも蒲焼の状態で焼かれたうなぎを使ったレシピになっております。作り方は簡単です。バターと赤ワインとたれをフライパンで温め、うなぎを蒸し煮にします。うなぎがふっくらしたらフライパンから出し、煮汁を詰めて、味をととのえてうなぎにかけます。黒胡椒を振ったら出来上がりです。2人前のソースに赤ワインを150cc使っていますので、ソースの色合いに赤の色素が入り、とてもきれいです。
この、ワインの為にうまれたようなうなぎのレシピにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインはドメーヌ バロン ド ロートシルト ボルドー レゼルブ スペシアル 赤でした。ドメーヌ バロン ド ロートシルトは5家系あったロスチャイルド家のなかでフランスを仕切っていたジェームス マイヤー ロートシルトの流れをくむ一族の会社で、ボルドー、メドックの一級格付けの筆頭シャトーであるシャトー ラフィット・ロートシルトをも所有しています。メドックの格付けは1855年のパリ万博のときに定められました。ボルドーのメドック地区の格付けなのですが、ぺサック レオニャン地区のシャトー オー・ブリオンが一級に選ばれていることからも判るように、ボルドー全域の格付けという意味合いもありました。ラフィットはそのトップに輝く筆頭格付けを獲得したのです。現在、メドックに4つある一級のシャトーのなかで、ラフィットは最も優美で繊細といわれ、その味わいは「ラフィットエレガンス」と呼ばれています。
色は少し暗さを含んだルビー色、紫の色調ももっています。香りは赤すぐりやさくらんぼなどの自然なベリー系があります。口にいれると柔らかみがあり、優しいのですが、芯の部分にはきちんとした骨格感があります。
うなぎと合わせます。柔らかく赤ワインで煮られて、皮のゼラチンがふるふる、ぷるぷるしています。ドメーヌ バロン ド ロートシルト ボルドー レゼルブ スペシアル 赤とあわせるとバロン ド ロートシルトの豊かな果実感とうなぎの旨みとが絶妙にマッチします。肉質のやわらかさと脂肪の滑らかさが赤ワインソースの濃い旨みと良く合います。キメの細かなタンニンと脂とが出会って甘みに変わり、赤ワインソースの味わいを更に引き立てる感じです。
「すごく合いますね!」
「うなぎの蒲焼と赤ワインが合うのは知っていましたが、このうなぎの赤ワイン煮の合い方は、なにか次元が違いますね・・・・」
「うなぎの味わいのパーツパーツとワインとが自然に馴染んでいますよね、ちょっと、びっくりです」
うなぎとワインの新境地を発見した思いのマリアージュ実験でした。