今回はタイ料理、ガイ タクライ トート=レモングラス風味の鶏唐揚げです。ガイは鶏、トートは揚げる、タクライはレモングラスです。レモングラスはタイ料理では良く使われるハーブです。イネ科の植物で、外見はススキに似ています。日本ではレモンガヤと呼ばれる事もあります。まさにレモンを思わせる香りがするのは、レモンの香味成分と同じシトラールを豊富に含んでいるからです。今回の実験ではフレッシュのレモングラスの根元部分を使いましたが、フレッシュのレモングラスが手に入らないときは、市販のハーブティーのレモングラスのティーバックを使うと簡単に出来ます。このレシピのポイントは下味としてレモングラスを良くもみこんでおく事と揚げ油にレモングラスとこぶみかんの葉で香りをつけておくことです。揚げ油を加熱していくとレモングラスの爽やかな香りが立ち昇ります。
このレモングラス風味の鶏唐揚げにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインはサントリージャパンプレミアム 甲州でした。甲州は、今注目のブドウ品種です。(一社)日本ソムリエ協会のワイン教本には、「甲州は日本で最もワインに仕込まれているブドウ品種」と記載されています。2010年にはO.I.V. (国際ブドウ・ワイン機構)に登録され、国際品種として認定されました。ピンク色の果皮を持った白ブドウで、完熟すると深みのあるピンク色になります。和の色見本の「蕾紅梅」のピンクを少し淡くし、少し多く紫を混ぜ合わせた、ちょうど「許色」(ゆるしのいろ)くらいの感じです。許色はその名のとおり、許された色で、天皇だけが身につける事が出来る禁色に近いけれども、特別に許可された色なのです。禁色とは濃い紫や深紅で、許色はその2つの色に近い色ではあるのですが、紅と紫とが単色ではなく、合わさった色でしかもかなり淡いので、特別に許された色になりました。登美の丘ワイナリーの甲州ブドウの畑では、11月に入ると完熟し、その美しい許色になります。陽の光を浴びて、輝くさまは、本当に夢のような光景です。品種そのものの個性は強くなく、香りもある意味、豊かではなく、味わいも控えめな、言ってみれば「おとなしい」品種です。でも「おとなしい」事は欠点ではなく、食事と合わせたときに、食材を上手く引き立てるワインになりうる優れた特性でもあるのです。その個性をいかすため、果汁を凍結し味わいを凝縮したワインと、シュールリーで仕上げたワインとを絶妙なバランスでブレンドしました。和柑橘を感じる上品な香りと、旨みを感じるしっとりした味わいが特長の白ワインです。
ガイ タクライ トートとあわせます。外見は、ごく普通の鶏の唐揚げに見えますが、さわやかなレモングラスの香りが静かに忍び寄ってきます。かじると、片栗粉の衣がカリカリです。鶏の肉汁と皮の脂の旨みとレモングラスの香りが合わさって、コクがあるのに爽やかな味わいになっています。
サントリージャパンプレミアム 甲州と合わせると、レモングラスの輪郭がより、くっきりします。爽やかさ、涼やかさ、切れのある酸を連想させる、あの香りです。それが前面に出てきて香りのフレームを作ります。背景から鶏の旨み、味わいが、じわじわとやってきます。さらに甲州の酸が加わることによって、香りだけのレモンタッチから、唐揚げに、ぎゅっとレモンを絞ったような、爽やかな味わいへと変化していきました。
「! 凄いですね。合います!!」
「ガイ タクライ トートだけでも美味しいと思っていたのですが、甲州と合わせると唐揚げの、料理としての格があがった気がしました」
「料理だけじゃなくて、ワインのほうも、ランクアップした気がします」
「ワインの奥行き、味わい深さがでますよね」
暑い季節にぴったりのタイ料理と日本の甲州との相性の良さに驚かされたマリアージュ実験でした。