今回のレシピは、そば粉のガレットです。ガレットはフランス語でgaletteと綴ります。もともとの言葉の意味は「円く薄いもの」で、俗語では硬貨を指す場合もあるそうです。料理の世界では丸い焼き菓子もガレットですが、そば粉を薄く丸く焼いた主食的なものを指している場合が多いです。そば粉のガレットの原点はブルターニュ地方の郷土料理です。ブルターニュ地方はロワール地方の下流部ミュスカデの故郷ペイ ナントの北側に位置する半島部分です。このあたりは10世紀から16世紀にはブルターニュ公国があり、ミュスカデの中心都市であるナントは、かつてブルターニュ公国の首都でした。ブルターニュ公国は面積およそ33,000 km2ですから、北東北の青森、秋田、岩手の3県合計よりもちょっと狭いくらいです。ブルターニュ地方はフランスの農業生産全体の約15%を占める農業の盛んなエリアで、特産物としては、そば、リンゴがあります。北に位置する涼しい産地らしいアイテムですよね。そばが特産になったのには逸話があります。ブルターニュ公国の公女だったアンヌ ド ブルターニュは早く父を亡くし、政略結婚を繰り返させられた人でしたが、ブルターニュを愛し、ブルターニュを飢えや他国からの侵略から守ろうとしました。アンヌは、そばがブルターニュの厳しい気候に最適なのを見抜き、そば栽培を推奨する為に、そば栽培を無税にしたという話です。その結果、ブルターニュではそば作りが盛んになり、現在ではフランスで生産されるそばの大半がブルターニュ産だそうです。
今回のそば粉のガレットはベーコン、ナス、トマトをソースにしてアスパラと卵をトッピングとして使います。卵はガレットを焼いている途中で割りいれて焼く方法もありますが、今回は温泉玉子を最後に入れました。この方が黄身の半熟度合いが計算できるからです。
フライパンに生地を入れ、ガレットを焼いていくとバターの良い香りがしてきます。ソースを敷いてチーズと温泉玉子とアスパラを載せて四隅を折って、もう少し熱を通すと出来上がりです。温泉玉子の黄身を崩してガレットに絡めると。黄金色から少し橙色を帯びた黄身が緑色のアスパラに纏わりつき、妖しく「おいで!おいで!」をしているようです。この絶品そば粉のガレットにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインはビニャ マイポ レセルバ ビトラル ソーヴィニヨン・ブランでした。
ビニャ マイポはワインの楽園ともいえる、チリのワインの中心地、セントラル ヴァレーの、その中でも銘醸地のマイポ ヴァレーに位置します。言ってみれば、マイポ ヴァレーはフランスのボルドーのような存在です。ビニャはワイナリー、シャトーの意味ですので、ビニャ マイポの名前はシャトー ボルドーのようなものにあたります。古くからずっと使われてきた名前だからこそ使える、ある意味「ありえないくらいのシンボリックな名前」なのです。醸造責任者はマックス・ウェインラブ、若き醸造長です。ワインの名前のVitral(ビトラル)とは“ステンドガラスの窓”の意味で、マイポの町を象徴するマイポ教会のステンドグラスを表わしています。ソーヴィニヨン・ブランらしい爽やかな香りと素直に熟した凝縮感が楽しめるワインです。
そば粉のガレットと合わせると、ベーコンの燻した香りが鮮やかに強調されました。
「そば粉のそばとしての香り、玄そばを石臼でひいている時の香りが戻ってくる気がします」「グレープフルーツなどの果物もぐっとクローズアップされますよ」
「このビニャ マイポ レセルバ ビトラル ソーヴィニヨン・ブランも良く合うのですが、赤もロゼもそれぞれに、違う表情を見せて、おいしいです」ワインの国の定番食、そば粉のガレットの幅広いワインとの相性を実感したテイスティング実験でした。