今回のワインスクエアのレシピは、ご馳走ですよ!ビーフステーキ、それも、Wオニオンソースです!!
主素材は、もちろん牛肉なのですが、この料理のポイントは何と言っても玉ねぎです。
玉ねぎは、ヒガンバナ科ネギ属の多年草です。世界的には栽培の歴史は長く、エジプトなどでは紀元前からの記録があるようです。日本での食用としての歴史は浅く、明治の初期、日本ワインの歴史でも、よく登場する「札幌農学校」が栽培を開始し、その栽培方法を農家に指導してからだそうです。日本では各地で様々な品種が育てられており、スーパーなどの店頭では一年中購入する事が出来ます。今日のレシピは、この玉ねぎを2種類の調理方法でソースにします。ひとつは、ゆっくり、じっくり、カリカリになるまで素揚げにしたものです。もうひとつは、牛肉をマリネするときに漬け汁として使う玉ねぎです。スライスした玉ねぎに赤ワインや醤油を入れマリネ液として肉の下味付けに使います。この言ってみれば、調味料のような存在の玉ねぎを炒め煮にしてソースを作るのです。写真のキツネ色のカリカリ玉ねぎの下に、しっとり、ひっそりと潜んでいる濃い茶色の物が2番目の玉ねぎソースです。この2つの、食感も味わいも異なる玉ねぎソースがステーキの味を複雑にしてくれます。
この絶品ソースのステーキにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインは、ボルドーの最高峰(*1)のシャトー ラフィットを擁するドメーヌ バロン ド ロートシルトがチリで醸すロス ヴァスコスのカルメネール グランド レゼルブでした。ドメーヌ バロン ド ロートシルトがチリでのワイン造りに挑戦し始めて、早、四半世紀です。ドメーヌ バロン ド ロートシルトでは、長らくチリの象徴的ブドウ品種であるカルメネール100%使用のワインをお客様に飲んでいただきたいと、試行錯誤を繰り返してきました。カルメネールは昔のボルドーでは、カベルネ・ソーヴィニヨンよりも主力の品種で栽培面積も、ずっと広かったそうです。ところが1863年にフランスに侵入したブドウの宿敵であるフィロキセラによって、絶滅してしまったのです。それが、なんとチリで、秘かに生き残っていたのです。チリのブドウ栽培の父と呼ばれるシルヴェストーレ オチャガビヤがフランスからブドウの苗木を輸入したのが1851年、フィロキセラがフランスに侵入する以前の事だったからなのです。しかし、生き残ったカルメネールは、カルメネールとしては認識されておらず、メルロ、それも青臭さを持っている、あまり良くないメルロと認識されていました。と言うのもカルメネールは早熟なメルロと違い、熟するのに時間のかかる品種だったからです。適切な栽培方法、収穫時期に変更されて、現在ではカルメネールは、チリを代表する個性的なワインを造る品種として知られるようになりました。
色は濃く、黒みを帯びた赤色です。ブルーベリーやブラックチェリーを思わせる香りや、スパイス、ハーブを連想させる香りもあります。口に入れると、充実感のある果実味で、豊かな味わいと長い余韻を持った逸品です。ビーフステーキ Wオニオンソースと合わせると、ステーキの濃厚な味わいを持った肉汁とカルメネールの緻密な構成力とが、ぴたりと合っています。カリカリ玉ねぎからの甘く焦げた風味が、肉の焼け目の香ばしい香りとあいまって、カルメネールのスパイシーさと共鳴します。茶色いマリネ玉ねぎのソテーのたっぷりとした甘みとカルメネールの凝縮した果実味がなんとも言えないハーモニーを奏でています。
「美味しいですね!」
「単に甘い、と言うだけの共通性ではなくて、もっと奥深いところで、がっちり合っている気がします」
「玉ねぎの甘みって、単純な甘みじゃあ無いですよね。その上に、更に、ステーキの脂肪とワインのタンニンとが出会って生まれる甘みがやってきますから、非常に複雑な甘み、旨みになっているんですよね」
ステーキの新しい楽しみ方を発見したアリアージュ実験でした。
(*1)メドック1855年シャトーワインの格付け。シャトー ラフィットは1級のさらに筆頭格付けに選ばれる。