今年の秋刀魚は、出だし不調でした。9月の上旬に開催された「目黒の秋刀魚祭り」でも例年使っていた岩手県宮古産が間に合わなくて、急遽北海道産に切り替えたそうです。夏が暑すぎて、水温が下がらず、群れの南下が遅れた、という話もあるようですが、原因ははっきりとは判っていないようです。9月の末から急速に漁が回復し、魚体も大きなサイズが増えています。それにつれて価格も下がってきています。いよいよ、秋刀魚の最盛期といった感じでしょうか・・・・。
秋刀魚については子供のころから不思議に思っていた事が2つありました。ひとつは、どの秋刀魚を見てもお腹に卵が無いのか?もうひとつは時々お腹に青いうろこをいっぱい飲み込んでいるのは、誰のうろこなのか?という2点でした。卵の件は何年か前に佐渡に行ったときに解決しました。佐渡では、秋刀魚を手づかみで捕る「ばんじょ(秋刀魚)の手づかみ漁」があるのです。漁師さんが小船で漕ぎ出し、海藻を束ねたものを海に漬け、その間に手指を入れてひらひらさせて、秋刀魚が寄ってくるのを待ちます。秋刀魚が近づいたところを手でつかんで捕らえるのですが、その秋刀魚は全員卵持ちなのです。実はこの秋刀魚たちは産卵のために北上して来た秋刀魚で、漁師さんの、たらした海藻と手指を見て「絶好の産卵場所がある!!」と卵を産もうと体をすり寄せてくるそうです。漁師さんによると「手でつかみに行くと逃げる。ばんじょが自分から指の間に入ってくるのを待つ」そうです。この漁があるのは初夏6月の頃です。皆さんが今食べている秋刀魚は南下していく秋刀魚で、冬を和歌山や四国、山陰の沖で過ごし、春、再び北の海を目指のです。秋の秋刀魚の時期には、まだ卵巣は未熟で、何匹秋の秋刀魚を食べても卵を見つける事が出来ない、と、いう訳なのです。もうひとつの疑問の青いうろこ。こどもの頃に母からは「これは秋刀魚が食べた小魚のうろこが消化されずにはいっている」と教えられました。半分「なあるほど」と思いましたが半分「秋刀魚のおちょぼ口で食べる小魚にしては大きいうろこであることと、溶け難い部分が残るのであれば背骨や頭が何故残らないのか、不思議に思っていました。この青いうろこは、秋刀魚自身のうろこで、棒受け漁で大量の秋刀魚が押し合いへし合いするときに剥がれて口に入ったものだそうです。
今回はその秋刀魚を赤ワイン煮にします。ワインスクエアらしく赤ワインをたっぷり使います。2人前2尾で200cc使います。それとワインビネガーも100cc。ハーブを入れて30分、味を整えて更に10分煮ます。秋刀魚を取り出して煮汁をソースにするのに半分まで詰めていくと、煮汁は、赤と茶と黒の混ざった深みのある色に変わって行きます。
この、秋に美味しい秋刀魚の赤ワイン煮にテイスティングメンバーが選んだイチオシワインはサンタ カロリーナ カルメネール レゼルヴァでした。サンタ カロリーナ社は1875年創立、チリで最も歴史の深いワイナリーのひとつです。歴史が古いだけではありません、2005年以降多大な投資をする事により、更なる品質向上を果たしています。
カルメネールはチリではずっとメルロと混同されていました。遺伝子分析によりカルメネールである事が認識されたのは1990年代、わずか20年ほど前の事です。サンタ カロリーナ カルメネール レゼルヴァはボリューム感のある華やかな香り立ち。ブルーベリーやアメリカンチェリーを連想させる果実香です。スパイシーさや伽羅などの香木を思わせる香りもあります。ふくよかで力強さのあるワインで、カルメネールらしい涼やかな酸が特徴的なワインです。
美味しそうに煮あがった秋刀魚からはタイムの良い香りが立ち昇ってきます。口にいれると、秋刀魚独特の、「ほくり」とした肉の旨みと、とろりとした脂肪と赤ワインソースのコクのある味わいが絡まりあって力強い味わいの世界を作り上げています。
サンタ カロリーナ カルメネール レゼルヴァと合わせます。秋刀魚を食べてからサンタ カロリーナ カルメネール レゼルヴァの香りを嗅ぐとスパイシーなニュアンスが強調される気がします。煮込む時に入れられたタイムの青々とした香りにひっぱられてカルメネールに潜んでいた緑のニュアンスが顔をのぞかせます。その、緑のニュアンスも、未熟な緑ではなく、生命感のある、力を感じる緑です。サンタカロリーナ カルメネール レゼルヴァは、果実味豊かなワインなのですが、秋刀魚と合わせると、じんわりと、より厚みを感じます。「ワインも、秋刀魚も、両方とも美味しくなるように感じます」「秋刀魚の皮下脂肪のコクを、カルメネールが、がっちり受け止めていますね。白ワインだと、ワインサイドが少し足りない感じがします」
秋の味覚の代表格の秋刀魚、是非サンタ カロリーナ カルメネール レゼルヴァで、お試しください。