豚トロは、わりと最近見かけるようになった豚肉です。10年くらい前に焼肉屋で初めて豚トロを見たときは何のどのあたりなのか、全く想像がつきませんでした。肉質部分に細かくサシが入っていて、色は違いますが、脂の入り方は、まるでマグロの大トロや和牛のサーロインのようにも見えます。最初は豚だと思わなかったのですが、豚だと聞かされて、改めてまじまじ見ても、ロースともバラとも、ましてモモなどとは全く違う質感で、きっと特殊な部位なんだろうなぁ、と、思いました。「特選豚肉の盛り合わせ」のひとつだったので、店員さんに、どこの部位なのか尋ねたら「豚トロといって、貴重な部位です」と教えられました。きっと高価なんだろうなぁ、と、思いながら食べました。噛むと脂があふれ出て普通の豚肉とは全く違う美味しさで驚いた記憶があります。確かに1頭から200gから400gくらいしか取れない量の極めて限られたお肉で、場所は首の後ろあたりだそうです。その美味しい豚トロも、日本人が食べるようになって、まだ20年にもならないそうです。農林水産省が食肉小売品質基準(牛肉及び豚肉)で豚肉を小売店で販売する場合に使用する事ができる部位の名称を、かた、ロース、ばら、もも、ヒレの5種類に限定し、枝肉から切り分けるときの切断の仕方なども細かく定めたからです。消費者を守るために、当然厳密な規定は必要なのですが、規格に当てはまらない小さい場所は全部基準外になり正規の流通に乗らない事になりました。こうして豚トロは美味しい部位にもかかわらず、日本人の口にあまり入らない肉になりました。需要が少ないですから、現在でも、比較的安い価格で購入する事が出来るのです。
その豚トロを今回は人気のタイ料理でいただきます。名前はコムヤーン、コムはタイ語で「豚の首」、ヤーンは「焼いた」だそうで、ストレートな名前です。豚トロをオイスターソース、醤油、シーズニングソースなどで作った合わせ調味料に漬け込みます。30分以上漬けたらフライパンで焼きます。たれを作るのですがここで、こだわりたいのが煎り米です。米を水に漬けてから乾煎りしてたれにいれるのですが、この煎り米が入るか入らないかで仕上がりが全然変わります。多少面倒くさいですが、是非挑戦してみてください。都内の有名タイ料理屋さんでも煎り米の工程を省いている店を見かけますので、そこよりもずっと美味しいコムヤーンがあなたの手で出来ますよ!!
さて、この極上の煎り米入りコムヤーンにテースティングメンバーが選んだイチオシワインは
フレシネのミーア赤、世界一(*1)のスパークリングワインメーカーが醸すスティルワインでした。醸造長であるグロリア コレルの「ぶどう畑で完熟したぶどうかじった時の味わいをワインで表現したい」という思いで醸されたワインです。リオハで有名なテンプラニーリョ種を少し甘く仕上げた親しみやすいワインです。
コムヤーンと合わせます。噛むと肉汁と脂がじゅわっと出てきます。マグロの大トロや和牛のサーロインのような、柔らかーなテクスチュアではなくぷりっとしっかりした噛み応えがあります。ナンプラーやオイスターソースのコクと香ばしい煎り米の風味がなんとも言えない複雑な旨みを醸しだしています。ミーアの赤を合わせると、ワインの厚みのある味わいと豚トロの肉とたれの旨みのボリューム感が丁度拮抗していて良い感じです。たれの甘みと唐辛子の辛味と、ミーアが、赤ワインながら持っている甘さと絶妙にマッチします。
「豚トロってサシがいっぱい入っているんですね」
「ミーアのタンニンと、その脂が合いますね、甘くなります」
「煎り米の香ばしさとミーアのスパイシーなニュアンスが良く合っていると思います」
タイ料理とミーアの相性の良さを再確認したマリアージュでした。
*1 IMPACT DATABANK 2011 EDITION 2011年度スパークリングワイン世界販売数量