今回の料理はオニオンアンチョビオリーブパイです。アンチョビオリーブオニオンパイではなくオニオンのほうが料理名の冠になっています。玉ねぎに力点が置かれているんですね。この料理、超美味しくて、しかもワインに良く合うんです。
で、このオニオンアンチョビオリーブパイなんですが、シンプルな料理です。美味しく出来るかどうかの最大のポイントは「じっくりと丁寧に玉ねぎを炒める事」です。テースティングの為の試作の時には約20分間炒めました!!ここまで炒めると、色は飴色を通り過ぎて、更に濃い色になります。透明感と、とろりとしたやわらかさになります。口に入れると独特の甘みがたっぷりとあります。玉ねぎが十二分に炒まったら、この料理は上手く出来たも同然です。冷凍パイ生地にマスカルポーネを塗って、炒めた玉ねぎを乗せたら220℃のオーブンで10分ほど焼けば出来上がりです。
この玉ねぎの旨味たっぷりのオニオンアンチョビオリーブパイにテースティングメンバーが選んだイチオシワインはこの9月に新発売になったばかりのフレシネ アシュツリー エステートのメルロ/テンプラニーリョでした。このアシュツリー エステートの醸造長はうら若く、しかも美しい女性です。しかもしかも日本人なのです!名前は佐藤陽子さんといいます。大学を卒業後、しばらく会社勤めしたあと、24歳の時に一念発起、単身スペインに渡りワイン造りを学び、現在はこのアシュツリー エステートの醸造責任者になっています。
陽子さんはスペインの地元品種を世界中の人に飲んでもらいたいと思いました。テンプラニーリョ、マカベオ、ボバルというスペイン原産の品種は地元では当然良く知られています。もちろん、とても美味しいワインが出来る品種です。でも残念なことに、知名度がありません。「どうやったらこの地元の品種を飲んでもらう事ができるのだろうか?」と、考えました。「スペイン品種の単独の名前をつけても、消費者の方はだれも手に取ってくれない・・・・」
そこで有名なフランス系品種を半分ブレンドし、そのフランス系品種の知名度を借りる事を思いつきました。「フランス系品種の力を借りてでも、とにかく一度消費者の方々に飲んでもらおう、飲んでもらいさえすれば、スペイン品種の美味しさは理解してもらえるはずだ」と考えたのです。そうして出来上がったのが、このフレシネ アシュツリー エステートです。
赤はボルドーの右岸の主力品種のメルロとテンプラニーリョのブレンドです。
紫がかったやや濃いガーネット色。スミレなど紫色の花の印象。カシス、ブラックベリーなどのベリーを連想させる香りとスパイシーさがあります。フルーティでバランスの良いワインです。
ワインとパイを合わせます。パイ生地からバターの優しい香りと香ばしい小麦粉の焦げる香りがしてきます。口にいれます。甘いです。それもかなり濃厚さをもった甘さです。「玉ねぎもここまで徹底的に炒めると、すごく甘いですね」「ちょっと焦げたニュアンスも砂糖を焦がしたような甘い香りを連想させますね」アンチョビのこってりとした旨味を伴った発酵の香りも口に広がります。アシュツリーを口に入れます。ワインの濃厚な果実味と、よーーーく炒められた玉ねぎの濃い味わいとが絶妙にマッチします。さっくりとしたパイ生地とも非常に良く合っています。
「玉ねぎもですけれど、オリーブを噛むとワインの味わいに広がりがでます」「松の実とも良くあうよ」「アンチョビが赤ワインと喧嘩するかと思ったら全然大丈夫ですね」
スペインワインの無限の可能性を実感したマリアージュでした。