太刀魚は夏に美味しい魚です。旬を調べると夏から秋と記載されている本が多いようです。産卵期が6月から10月と幅があり、その産卵にそなえて餌をたっぷりと食べるのでその時期に美味しくなるのです。
農林水産省の平成20年の統計によると県別の漁獲高では愛媛県が一位になっています。また港別では有田港が全国1位で、有田市のホームページトップにも「日本一の太刀魚漁獲高」の記事が掲載されています。
漁船で獲るときは主に底引き網で獲るようですが、各地で釣りも盛んに行われています。東京近辺や大阪、瀬戸内海をはじめとして遊漁船も出ています。餌釣りはもちろんルアーでの釣りも行われています。夜釣りで港の防波堤からも釣れます。市場に並んでいる太刀魚も銀色に光って綺麗ですが生きているときは更に美しいです。リールを巻いて太刀魚が海面に近づいてくると水面を照らす明かりに銀の魚体が青白くギラリと光ります。うねうねと波打つ背びれが妖しく虹色のように輝いています。銀色に光魚体は尾びれ、腹びれが無く細長いので、まさに「太刀」を想像させます。英語でもサーベルフィッシュと呼ぶそうですよ。美しい姿ですが、口からは鋭い歯が何本も突き出しており獰猛な顔つきです。身は白身ですが脂身が多くコクがあります。
今日は夏に美味しい太刀魚を香草焼きにします。ソースはフレッシュトマトで作った夏らしいソースです。
太刀魚のお腹に香草を刺してオーブンで焼いていきます。香草の焼ける心地よい香りがしてきます。太刀魚の皮の焦げる食欲をそそる香りもしてきます。耐熱ガラス越しに太刀魚を見ると皮の焦げ目のところから脂がふつふつと沸いているのが見えます。
このいかにも美味しそうな太刀魚の香草焼きにテースティングメンバーが選んだイチオシワインはウィリアム フェーブル シャブリでした。ウィリアム フェーブルは1850年の創業で、メゾンの名前の由来のウィリアム フェーブル氏が1950年に相続し、その後積極的に畑を買い進めました。1990年代に樽の風味のしっかりわかるシャブリ=ドメーヌ マラディエールとして一世を風靡した生産者です。氏には子供がおらず、1998年にジョセフ アンリオに経営権を譲渡しました。アンリオ氏は醸造責任者にメゾン ブシャールの若き醸造家「ディディエ セギエ氏」を抜擢しました。当時31歳の若さながら「透明感があり、シャブリ本来の酸のうまみのあるワインづくり」を目標にいくつもの改革を断行、急速にその評価を高めました。葡萄に傷がつくのを防ぐために村名シャブリでさえ手摘みにこだわります。更に、運搬には13kg入りの小型プラスチックケースを使用 ぶどうをつぶさずに健全なまま醸造施設に搬入できるようにしました。 更に更に、収穫したぶどうは選果台で丁寧に選果します。こうした努力の積み重ねで造られたシャブリはピュアでクリーン、シャブリらしいミネラルに富んだ味わいです。
太刀魚と合わせます。太刀魚にお箸を入れると、たっぷりと脂が乗っているのか、身は少し透明感のある白です。口に運ぼうとすると香草の「ふうわり」とした香りがしてきます。身は柔らかくほどけるように口のなかで溶けてゆきます。シャブリを飲みます。キレのある味わいです。フレッシュでクリアなタッチです。残糖はほとんど計測できない白ワインなので「数字から見た味わい」は極めて辛口のはずなのですが、どこか完熟葡萄の甘やかさがあります。太刀魚のミネラルと呼応するようにシャブリのミネラルのタッチも強まる気がします。シャブリのおかげで太刀魚の「旨味」や「ほのかな甘み」が、よりくっきりと判る気がします。「素晴らしい組み合わせですね」「シャブリは繊細なので太刀魚の強い旨味に圧倒されるのではないか?と心配したのですが全くそんな事はありませんね」「むしろ、太刀魚の味わい深さを、より引き出していますね」
繊細ながら芯の強さを持ったシャブリの魅力を十全に引き出す幸せなマリアージュでした。