サントリーでは、さまざまな消費者調査をしています。いろんなお客様に「ワインが飲みたくなる料理」をお尋ねする調査をすると、毎回のようにトップになるのがパスタです。と、言うことで、第157回のワインに美味しいレシピはアンチョビとパン粉のパスタです。 イタリア料理にもフランス料理にも良く登場するアンチョビ(anchovy)ですが、何語かご存知ですか?英語なんですよ。イタリア語はアッチューガ(acciuga)フランス語ではアンショワ(anchois)です。
このアンチョビですが、大きく2つのものを指しています。ひとつはカタクチイワシ科の小魚類全般という「魚そのもの」。もうひとつはその小魚で作った発酵食品です。缶詰だったり瓶詰めだったりする、あれです。日本でアンチョビと言うとこちらのほうをイメージされる方が多いのではないかと思います。魚自体を指すアンチョビですが、先ほどカタクチイワシ科と言いましたがイワシの仲間です。日本でイワシと言うと大きく3つのイワシのことになります。マイワシ、ウルメイワシと今日のテーマのカタクチイワシです。3つともニシン亜目の仲間なので、近い親戚ではありのですが、マイワシとウルメイワシはニシン科での同じ科で、カタクチイワシだけはカタクチイワシ科と別の科に属しているのでちょっと遠い親戚の感じでしょうか・・・・確かにマイワシとカタクチイワシの顔つきは大きく違いますよね。カタクチイワシの口は大きく裂けていて、目の後ろのほうまで開くことができます。体つきもマイワシの方が太さがあります。カタクチイワシは、ほっそりとスリムです。イタリア語の隠語でアッチューガ(acciuga)=アンチョビは痩せた女性の事を指すそうです。 もうひとつの発酵食品の方のアンチョビは塩漬けしたカタクチイワシです。普通、3枚におろしてあります。生のまま塩漬けした発酵食品です。海外のスーパーで缶詰のアンチョビを探すと、そっくりの外装でオイルサーディンと表示した缶詰も並んでいます。サーディンは基本的にはマイワシの事です。さらにオイルサーディンは油煮、つまり油で加熱してあります。味わいも塩蔵のアンチョビの方がずっと塩辛く、発酵させていますから発酵による香りが豊かです。 パスタを作ります。パン粉のパスタという題名ですが細かいパン粉よりもフランスパンを手でちぎって細かくする程度の方が、かりっとした食感があって美味しいです。フライパンにオリーブオイルを引き、ニンニク、パセリ、アンチョビを炒めます。良い香りがしてきます。食欲をそそるニンニクの香ばしい香り、アンチョビのこってりと濃厚な発酵した香りと爽やかさのあるパセリの緑の印象のある香りです。パン粉をいれてカリッとなるまで炒めます。
このアンチョビ香るパン粉のパスタにテースティングメンバーが選んだイチオシは、なんと赤、ブルゴーニュの名門ブシャール ペール エ フィスが醸したブルゴーニュ ピノ・ノワール "ラ ヴィニェ"でした。今回試食実験に登場したヴィンテージは2009年、ブルゴーニュもグレートヴィンテージでした。グラスに注ぐと2008年の"ラ ヴィニェ"よりも少し色が濃い気がします。とは言えピノ・ノワールですので明るさと透明感のあるルビー色です。香りはベリー系それも赤い色のベリー、サクランボはスグリなどのイメージです。それに赤い花のニュアンスやわずかにスパイシーさも感じられ、複雑です。口に含むとフレッシュさと果実味が、最初に感じられます。ボディは中ぐらいですが筋肉質に引き締まった印象があります。
いよいよパスタと合わせます。アンチョビはイタリア料理にもフランス料理にも良く出てきますが、ワインと合わせると生臭さを引き出してしまうことがあって、赤ワインはもちろん白ワインでも「難しいなぁ」と思うことが良くあります。今日の"ラ ヴィニェ"との組み合わせでは生臭さは感じませんでした。かえって、くっきりとアンチョビの美味しい要素がクローズアップされ、それに"ラ ヴィニェ"の程よい厚みが加わり全体を高めている印象でした。 「意外ですね」「絶対白がイチオシになると思っていました」「発酵の香りは確かに強調されていますが、嫌みにまではなっていないですね」いろんな意見がでました。
発酵食品の香りはそれぞれ個性的です。納豆、塩辛、ウォッシュ系のチーズもそうですね。香り自体に、好きと嫌いが比較的はっきりと出る食品だと思います。香りのレベルも、ある人にとって「物足りないレベル」がある人にとっては「強すぎるレベル」であったりします。アンチョビとパン粉のパスタと"ラ ヴィニェ"の組み合わせはアンチョビの個性的な香りを強調しすぎない絶妙なマリアージュだったと思います。