今回は春巻きです。それもワインに飛び切り良く合う春巻きです。主素材は鯛です。鯛は奥の深い魚です。姿・形が美しく日本人が古来から愛し続けた魚です。深い海の底に潜んでいます。性格は獰猛です。主に海老を捕食すると言われていますが、天然ものの鯛を捌くと小鯵や鰯、イカ、それも結構大きなものを飲み込んでいたりして驚かされることがあります。
身は淡白です。淡白なのですがしみじみとした味わいがあります。今回のレシピはその鯛をくるりと巻いて春巻きにします。でも、ただの白身魚の春巻きではありません。グレープフルーツの果肉と香り豊かなアスパラガス、それになんとマスカルポーネチーズを使います。
春巻きを揚げていきます。温度は少し低めからじわりと温度を上げていく方がきれいに揚がります。色づいてきたら出来上がりです。美しい色です。少し濃淡のあるキツネ色です。
箸でつまむとキツネ色のむこうにアスパラガスのグリーンが透けて見えます。色が重なってエメラルドに見えます。
齧ります。サクッとした歯ごたえ、その中からマスカルポーネがとろけて出てきます。優しく柔らかな味わいです。鯛の身がホロリとくずれます。はんなりとした甘みが感じられます。もう一口齧ります。こんどはグレープフルーツの果肉にぶつかりました。グレープフルーツの香りと酸が鯛の旨みに爽やかさを添えます。
さて、この春巻きにテースティングメンバーが選んだイチオシはロス ヴァスコス ソーヴィニヨン・ブランでした。それもなんと満場一致!でした。グラスを回して香りを嗅ぎます。爽やかな香り立ちです。最近ヴィンテージが代わり2009年になりました。2008年もかなり爽やかだったのですが、更に爽やかさアップって感じです。柑橘系の果物を連想させる香りが豊かです。春巻きを齧ってワインを飲もうとすると、グラスが鼻に近づいただけでグレープフルーツの香りがガツンと昇ってきます。ワイン単独よりも、生き生きとしたニュアンスが伝わってきます。口に含みます。爽やかさが爆発する感じです。その爽やかさの嵐の中に鯛の旨みが「ぴんっ」と一本筋を通している感じがします。
「ソーヴィニヨン・ブランの中のグレープフルーツを思わせる要素とグレープフルーツが増幅しあったんですね」
「例の同一性の原理ですね」
同一性の原理とは、ワインと料理の相性を考えるときの原理原則のひとつです。簡単にいうと「同じニュアンスを持ったワインと料理はひかれ合ってお互いを高める」というものです。
「口一杯の爽やかさなんだけど、旨味、鯛のしみじみとした旨みはきちんと伝わってきます」「鯛って、繊細だけど力があるんですね」
「ロス ヴァスコスもワインだけよりずっと美味しい気がします」
同一性の原理を強く実感させてくれたテースティングでした。