若葉の間をくぐり抜けて、爽やかな風が訪れる季節になった。風とは、すなわち運動する空気である。地球は約五六〇〇兆トンもの空気に包まれているわけだが、その空気はいつも動いていて、気持ちのいい微風の吹く日、私たちはいながらにして、数百キロも離れた所からやって来た空気に触れることもできるわけだし、ついさっきまで成層圏近くのどこかにいて、そこから急降下して来た空気をいま深呼吸しているかもしれないのだ。そんな風に考えると、自分が地球の大きな呼吸の中にいるようで、何だか壮大な気分になってくる。だからこういう日は、何はともあれグラスに氷を二三個入れて、体の中を、若葉の薫りとモルトの香りで一杯にしてやるのである。
|