ロジャー・アックリングというイギリスの画家は、鉛筆をもたない。彼はレンズで絵を描くのである。レンズといってもカメラのそれではなく、いわゆるひとつの虫眼鏡、あれです。お天気のよい日になると、アックリング先生、やおらこの虫眼鏡をかざし「制作」にとりかかるらしい。キャンバスは木片や骨などで、その表面にレンズの焦点を結ばせる。やがてひとすじの煙と共に、太陽が絵を描き始めるというわけである。この太陽との共同作業によって、彼は「自分も大地と空の一部である」といいいたかったのだろう。よい天気になると、彼の作品を想い出す。そこで、自然の恵みであるピュアモルトをグラスに満たし、ひととき私も、大地と空の一部になる。
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