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ウイスキー、とくにモルトウイスキーの香りや味わいの特長のひとつに
スモーキー(smoky/煙っぽい)、ピーティー(peaty/ピート様)という表現がある。
日本語に当てはめるならば燻香(くんこう)、いぶしたような感覚のことである。
これはモルトウイスキーの原料、大麦麦芽を乾燥させる際に
ピート(peat/泥炭、草炭)を焚いて、大麦の発芽を止めることに起因している。
この製法でつくられる麦芽をピーテッド麦芽と呼ぶ。
かつてはすべてがピーテッド麦芽を原料とした。
しかしながら近年はあまりスモーキー、ピーティーさを強く感じさせない、
あるいはピートを使用しないノンピーテッド麦芽を原料としたモルトウイスキーが主流となってきている。
「ラフロイグ」「ボウモア」「アードモア」「カネマラ」。
このシングルモルトウイスキー4ブランドは
そんな時代の流れの中で伝統的な香味世界を守りつづけている。
まさにウイスキーづくりの源流、原点である
ピーテッド麦芽由来のスモーキーさで魅了する。
ピートとは植物が炭化したもの
スコットランドのハイランドやアイルランドには大きな樹木や森林が少なく、決して肥沃な大地とはいえない。その代表的な景観に荒涼としたピート湿原がある。
痩せた土地に冷たい風雨。湿潤さの中で生育するのはコケ類、ワタスゲ、葦(あし)、そしてヘザー(ヒース)など。こうした植物が長い年月をかけて堆積して、空気が触れない条件下でゆっくりと分解、炭化したものがピートであり、植物の遺骸土、つまり腐植土である。
ピート層の厚さは場所によって異なるが数十cmから数m。生成速度は100年で数cm程度、1000年で15cmほどの堆積ともいわれる。途方もない時の積み重ねを要しているのだ。
ピートはかつて家庭燃料として、そしてウイスキーづくりの燃料として利用されていた。主に初夏、地中のピートを切り出す(掘る)。特製の鍬(くわ)で切り出された長さ1mほどの角柱型のピートは黒褐色で、80%以上が水分。これを地表で数カ月乾燥させ、水分量が半減すれば燃料として使用できるようになる。
現在は主熱源に使うことはほとんどない。ピートを燃やす伝統はモルトウイスキーづくりのひとつの方法として、象徴的なものとなった。
手作業の稀少なフロアモルティング
アイルランドでは19世紀初頭にはピーテッド麦芽を使用しなくなった。ウイスキー産業が巨大化して、ピートを燃料として小規模に生産する状況ではなくなったためである。燃料は石炭や木材に変わっていった。
一方のスコットランドでは1950年代まではすべての蒸溜所に製麦施設があった。その後、スコッチの世界的人気により約20年間つづいた蒸溜所の拡大にともない、専門の麦芽製造会社(製麦会社/モルトスター)に委託するシステムが確立する。これにより、現在では自前でフロアモルティング(床に大麦を広げて発芽を促す)をおこなう蒸溜所はラフロイグやボウモアなど6蒸溜所程度しかない。
モルトウイスキーづくりはまず、大麦を発芽させる製麦と呼ばれる麦芽製造からはじまる。
製麦は工程順に浸麦、発芽、乾燥とつづく。浸麦は大麦を水を張ったタンクに入れて水分を吸収させ、次に水を抜いて酸素を与え、再度水を加えて適度な水分量にする。
その大麦を床に広げて発芽させるフロアモルティングは、温度調節と広げた麦層を返して新鮮な空気を与えるという手づくりの根気のいる作業である。発芽によってデンプンやタンパク質を分解して糖分に変えるための糖化の役目を担う十分な酵素を生成させたところで、発芽を止める麦芽乾燥へと移る。
発芽した大麦はキルン(乾燥炉)の中の金網の上に広げられて乾燥へと向かう。ピーテッドモルトをつくる場合は最初の数十時間、熱源としてピートを焚く(後は熱風を送り込む)。このピーティング時にピートの燻香が麦芽に付着することで、スモーキー、ピーティーと表現される香味が導かれる。
糖化、発酵、蒸溜という工程を経てもその香味特性が消え去ることはない。
ピートとテロワール
スモーキー、ピーティーといったピート香の強さはさまざまな要因によるもので、スモーキーモルトウイスキーの香味特性は一様ではない。蒸溜所が目指す香味が異なるために、ピーティング時に焚くピートの量、使うピートの水分量、燃焼の仕方、麦芽の水分量、燻煙時間などが異なるからだ。
ただし、地域性が明快に表れるものもある。アイラモルトの「ラフロイグ」「ボウモア」はアイラ島という特異な立地のピートを使用するために、ワインのテロワール的な感覚を強く物語る。
両蒸溜所とも海に面しており、潮風の影響を受ける。そしてスコットランド本土やアイルランドと大きく異なる点は、ピートに海藻類や貝殻など、強い海風が運んできた海産物がたくさん含まれていることだ。両蒸溜所とも独自のピートボグ(採掘場)を持つが、強風の日には海岸に打ち上げられた海藻が内陸まで飛来してくる様子が見られる。
こうした環境からスモーキーさの中に潮の香、薬品的なヨード様といったアイラモルト独特の個性が生まれていく。