10月4日、サントリーホール小ホールに、大沢在昌氏はじめ日本推理作家協会が誇るミステリー作家6名が集結。恒例となった日本推理作家協会とサントリーのコラボレーションによる「シングルモルト&ミステリー」トークショーが行われました。
生バンドのジャズ演奏が流れるなか、参加者はシングルモルトウイスキーを片手に、日本を代表する錚々たる推理作家たちがユーモアたっぷりに語る、シングルモルトづくりをめぐる“謎”とブレンド秘話に耳を傾けていました。
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日本推理作家協会:大沢在昌氏(理事長)/逢坂剛氏/北方謙三氏/桐野夏生氏/東野圭吾氏/福井晴敏氏
サントリーチーフブレンダー:輿水精一 |
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■輿水精一チーフブレンダー(以下、輿水)
6月8日に、本日ご参加の6名をサントリー山崎蒸溜所にお招きし、山崎で保有する様々なモルトの中から厳選した10種を使い、原酒どうしを合わせるヴァッティングをしていただきました。例年は、モルトウイスキーとグレーンウイスキーを混ぜて、オリジナルのブレンドウイスキーを作っていただいたのですが、今年はモルトウイスキーだけを混ぜる「オリジナルシングルモルトウイスキー」づくりに挑戦していただきました。皆さん、実に真剣に取り組んでくださり、個性的なモルトウイスキー6種が出来上がりました。 |
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輿水精一チーフブレンダー |
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大沢在昌氏
ヴァッティングイメージ:「うつろい」 |
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■大沢在昌氏(以下、大沢氏)
今年はモルトウイスキーばかりで、個性の強いものが多く、なかなか手強かったですね。量が少なすぎると埋没するし、オーバーすると主張が強すぎて他のモルトの魅力を消してしまう。それでも、9種類の原酒を使って納得のいくシングルモルトが完成しました。
■輿水
9種類も使ったのには感服しました。種類を多く使うほど難しいのですが、うまくできれば味と香りに奥行が出ます。さすが大沢先生と思わせる作品でした。
■大沢氏
そう。私の書く物語と一緒で、奥行があるのがポイント。小説家よりブレンダーのほうが向いているのでは、と思わせる出来栄えなのに、なぜベストワンに選ばれなかったのか、それが謎です(笑)。
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■逢坂 剛氏(以下、逢坂氏)
どの原酒もいいものばかりだから、そのまま飲んじゃったほうがいいんじゃないかと思いました(笑)。また、たくさんの種類を混ぜればいいってものでもありません。女性の顔だって、美しいパーツを寄せ集めたからって美人にはなりませんから。原酒を並べて、指差しながら「達磨さんが転んだ」で選んでもいいのだけれど、そこはまあ、眉、口、鼻だけでも選ぶつもりで、いつも飲んでる親しみのある梅酒づくりに使った樽と、小説の舞台にすることが多いスペインのシェリー樽で寝かせたもの、それにピートの効いたものの3種類だけヴァッティングしました。
■輿水
いつも親しみやすく仕上がるのが逢坂先生のお酒の特徴。最初はピートが印象的に香るのですが、飲んでいるうちに、なじんできます。
■逢坂氏
スペイン女性のようないいモルトウイスキーです。テイスティングの時には、「圧倒的においしい」という声が聞こえたように思ったのですが、あれは空耳だったのかな(笑)。
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逢坂 剛氏
ヴァッティングイメージ:「セピアの記憶」 |
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北方謙三氏
ヴァッティングイメージ:「替天(たいてん)」 |
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■北方謙三氏(以下、北方氏)
替天とは、天に替わりてことを行うの意味。で、天に替わりてヴァッティングを行ったのですが、結局いつものとおりズシンとピートが効いた「男の酒」ができてしまった(笑)。ほとんどヨードチンキの香りに近いのですが、実はコレが飲むと癖になる。今回、大沢は1位に選ばれたことがあるという過去の栄光にしがみつき、逢坂さんは妙に勝ちに行こうとしている。その点、私の「男の酒を作る」方針は首尾一貫して微動だにしていない。大好きな山崎25年に近い傑作だ、と本人は信じているのだけど、脆弱(ぜいじゃく)な奴らにはこの味はわからないだろうなあ。
■輿水
いつもピートが強烈な男っぽい味を作る北方先生らしい作品。シングルモルトになって、さらにそれが強調されたように思います。確かに山崎25年に通じるものがあります。
■北方氏
俺の酒の良さは、ヴァッティングの後で樽に戻して後熟させないと真価が出ない。小説で推敲を重ねるようなもの。そしてやがてウイスキーも小説も芳醇な香りを放つというわけだ。
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■桐野夏生氏(以下、桐野氏)
以前、作家仲間の小池真理子さんと私が勝ったことがあるので、それを記念してイメージは「真理子」にしました。北方さんが男っぽさでいくのなら、私は女っぽさで勝負しようと、色の薄い原酒を選びました。前回は、化学の実験のようにいろいろ混ぜたのですが、今回はくたびれてしまい、4種類に絞りました。
■輿水
謎2005を選出するテイスティングは、誰の作品かわからないようにブラインドで行うのですが、桐野先生のを一口飲んだ時、まさにガツンとくる男っぽい味なので、北方先生のかな、と思いました。
■桐野氏
それでも、私は女性っぽく作ったはずなのですが…(会場笑)
■大沢氏
そのガツンが、桐野さんの考える女っぽさなんだよ(笑)。なんといっても女性のハードボイルド作家ですから。
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桐野夏生氏
ヴァッティングイメージ:「真理子」 |
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東野圭吾氏
ヴァッティングイメージ:「ローレライより深く、イージスより強く、1549より爆発的」 |
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■東野圭吾氏(以下、東野氏)
福井さんに勝つつもりで付けた、イメージタイトルなのですが、勝負しない前に負け惜しみを言っているようで、事実その通りになってしまいました(笑)。
■輿水
東野先生は、今回唯一人だけピートの効いている原酒をまったく使いませんでした。そのぶん香りが華やかで、バニラ、完熟りんご、キャラメル、クッキーを思わせる香りが連続して現れます。
■東野氏
ほら、輿水さんの言葉を聞いているだけでもおいしそうじゃないですか。原酒が単独でとてもおいしいので、1+1が3や4になってもいいのに、北方さんのように滑ってしまう場合もあります(笑)。僕はせめてマイナスにならないようにしたのですが、やはりタイトルが災いしたのですかね。
■北方氏
その画竜点睛を欠くところが、君の人生なのだよ(笑)。
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■福井晴敏氏(以下、福井氏)
ヴァッティングが「亡国のイージス」の映画公開の頃だったのでイージスという言葉が、一行でも雑誌に載ればいいと、このイメージにしました。作業中に、一昨年ベストに選ばれた馳星周さんが「ピートを効かせた」と繰り返し強調していたのを思い出し、ピート系の原酒を重視しました。でも、効かせ過ぎて滑ってしまう先輩もいますから(笑)、僕は世間のニーズを考慮してバランスのいい酒を目指しました。
■北方氏
何を姑息な。わが道を行ってこそ、男だろうが、福井!(会場爆笑)
■大沢氏
裏話を言うと、前々回の馳君のピート話はひっかけで、実はシェリー樽の原酒が決め手だったのです。僕が福井君にそのことを教えてから、彼はあわててシェリー樽原酒を大量に加え、その僕の敵に塩を送る助言のおかげで、今回の「謎チーフブレンダー」の栄誉を勝ち取ったのです。
■輿水
皆さんのお話からもわかるように、今回のベストワンシングルモルトに選ばれたのは福井先生の作品。先生方6名に私も含め山崎蒸溜所の3名を加えてのブラインドティスティングでベストの折り紙がつけられた福井先生のシングルモルトは、「謎2005〜AEGIS〜」として限定発売されます。ヴァッティングから樽に戻して4カ月、後熟でまろやかさを増した福井ブレンドは、さらにおいしくなっています。
■福井氏
選ばれてボトルになることは、本当に嬉しいですね。文化的に見えて、基本は体育会系である推理作家協会の先輩方の今後のいじめが心配ですが(笑)、それに耐えられるほどに名誉なことです。海上自衛隊の協力も得て、ラベルにはイージス艦をデザインしました。一口目はパッと華やかな香りが広がり、その後に重厚な旨さを感じるはずです。ぜひ皆さん飲んで楽しんでください。
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福井晴敏氏
ヴァッティングイメージ:「AEGIS〜イージス〜」 |
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休憩を挟んで行われたトークショー第2部は、参加者から各作家への質問コーナー。ファンからの質問に、ひとりひとりの先生が楽しく答え、会場は笑いの渦に巻き込まれました。なかには、福井先生の小説の主人公名である「保、護、攻にはどんな意図があるのか」など、先生自身が「そこまで見抜かれたか」と驚く鋭い質問もあり、まさに、シングルモルトウイスキーとミステリーに酔いしれる一夜となったのでした。
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ウイスキーには、大麦を原料とする「モルトウイスキー」ととうもろこしや雑穀を原料とする「グレーンウイスキー」があります。モルトウイスキーだけを使ったのが「山崎」「白州」「北杜」などのモルトウイスキー、モルトとグレーンを混ぜて作るのが「響」「オールド」などの「ブレンデッドウイスキー」です。さらにこの「モルトウイスキー」にはひとつの蒸溜所だけで作られた原酒のみを使った「シングルモルトウイスキー」と、異なる蒸溜所の原酒を混ぜ合わせる「ピュアモルトウイスキー」があります。今回、推理作家の先生方に挑戦していただいたのは、山崎蒸溜所のみで作られた原酒をヴァッティングする「シングルモルトウイスキー」づくりです。
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