際立つピート香と潮の香
プロセスウオーター(仕込み水)はピート層を浸透してきたもので、「ラフロイグ」の香味特性を生むうえで極めて重要な原料である。まさに生命の水。
麦芽乾燥に使用するピート(泥炭)はアイラ空港近くの湿原にある専用ピートボグ(採掘場)から掘り出す。ツツジ科のヘザーとコケ類、海藻をも含んで生成した他に比べて水分量の多いピートを使っている。
大麦はオックスブリッジ。85%は近くのポートエレンに麦芽製造を委託しているが、残りの15%はラフロイグ蒸溜所で製麦している。この15%が大きな意味を持つ。
いまでは数少なくなった蒸溜所でおこなう古典的なフロアモルティングは、ピート成分の溶け込んだ水をたっぷりと含んだ大麦を床に広げ、職人が8時間おきにすき返して発芽を促す。ほどよく発芽したところでキルン(麦芽乾燥塔)の下にある乾燥室で発芽を止める。乾燥に30時間を要している。
まずは大麦が湿っている最初の12時間、「ラフロイグ」専用ピートを焚き、ピート香をよく付着させて高いフェノール値を得る。次に18時間、ピートの熱とともに入り江から吹き込む潮風も取り込み、甘みを含んだ燻煙で独自の麦芽をつくりあげていく。
フェノールの濃度は40~45ppmだが、数値でははかれない風味が「ラフロイグ」麦芽にはある。
経験に裏付けされたスモーキー
製麦が終わると麦芽を粉砕し、ピート成分の溶け込んだ仕込み水の温水とともにマッシュタン(糖化槽)に投入する。でんぷん質を糖分に変える糖化工程だ。
やさしくかき混ぜ、そしてじっくりゆっくりと濾過し麦汁を採取する。
麦汁は発酵へと向かう。発酵槽は6基。麦汁に酵母を加え、温度管理に細心の注意を払いながら約55時間をかけ、アルコール分約8.5%のウォッシュ(発酵液・醪/もろみ)を得る。
そして蒸溜工程。ポットスチル(蒸溜器)はアイラの蒸溜所の中で最も小型で、ストレート型の初溜器3基、ランタン型の再溜器4基の計7基を稼働させている。初溜でアルコール分約22%となり、再溜により約67%のニューメイクが樽に詰められていく。
銅のくびれたランタン型の再溜器の形状がスモーキーな香味特性に影響を与えていると言われている。またニューメイクのカットが通常のタイミングより遅くおこなわれ、最後のほうにカットされる高いフェノール値の蒸留液を取り込んでいるとも言われている。これは長年にわたる経験がもたらしたものであろう。
バーボン樽がもたらす深遠
ニューメイクはオークの樽に詰められ、熟成という長い年月に身をゆだねる。
「ラフロイグ」の貯蔵樽のほとんどがバーボン樽の1st.フィル。つまりホワイトオーク材の1度バーボンの熟成に使用された樽で、最初に樽詰めされたものだけを使うということになる。
1st.フィル・バーボン樽は、「ラフロイグ」にバニラの甘さ、クリームの滑らかさを与える。これが単にピィーティでスモーキーといった強さだけでなく、優しさのある深遠な香味を生む大きな要因となっている。仕込みから蒸溜までの工程はもちろん、貯蔵工程によっても重層的な、深く厚みのある香味を築いていく。
バーボン樽が主体ではあるが、ヨーロピアンオーク材のシェリー樽、さらには甘口シェリーとなる白ぶどう品種のペドロ・ヒメネスを詰めた後のシェリー樽など、幅広いタイプの樽で熟成し、未来に向けて新しい香味を生む試みもおこなっている。