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数多くの原酒を繊細に重ねあわせ、華やかで奥深い「響」の香味を描き上げるブレンダー。「響」のブレンドとは、ブレンダーたちの技とは、いったいどんなものなのでしょうか。サントリーのウイスキーづくりを統括する福與チーフブレンダーが語ります。
同じ時期、同じ方法で仕込んだ原酒であっても、熟成が進むにつれ、ひと樽ひと樽に微妙に異なる香味が現れます。熟成の度合いは周囲の自然環境や日々の天候などにも左右されるため、原酒の状態を機械的にコントロールすることは叶いません。
では、どうするのか…。わたしたちブレンダーは、原酒のテイスティングを繰り返します。そしてブレンドに適したものを厳選し、ブレンドを重ねて香味を描いていくのです。サントリーでは現在、山崎・白州・知多、3つの蒸溜所で育まれた約100万樽におよぶ原酒を保有していますが、その熟成度合いや香味の個性を日々確認する必要があります。ブレンダーが1日にテイスティングする原酒は、多いときで300サンプルを超えることもあるんですよ。
この樽はどこから来たのか、いつ頃つくられたのか、どんな樽材を使っているのか、使用歴はどうか。熟成樽の鏡板には先達が記したメッセージが残されているので、貯蔵庫で樽の前に立ち、確認することもあります。テイスティングを重ね「響」を構成するのに相応しい原酒を見つけ出したら、目指す香味に向かって原酒の組み合せを検討します。
原酒をブレンドしていく中で、予想もしないことや思いもよらない化学反応が起きることがあります。だから苦しかったり、面白かったりするのですね。
新たな香味を開発する際は、さまざまなブレンドを試します。余計な先入観をもたずにチャレンジすることが必要だと感じていますね。やってみてはじめて、新たな側面が見えてくるということが多々ありますから。
昨年発売した「響 JAPANESE HARMONY」を開発したときも、思いがけない化学反応に出会いました。それは、ミズナラ樽の働きです。
もともとミズナラ樽原酒は、東洋的で独特の香りを出すためのキーとして加えるもの。それが、「響 JAPANESE HARMONY」においては、トップノートの華やかさを引き出すだけでなく、余韻の充実感をもたらすことにもつながりました。ミズナラ樽原酒の使い方として、今までになかったブレンドです。もしかしたら、気づかずにいただけかも知れませんが…。
こういった使い方をするには、本来長期熟成が必要とされるミズナラ樽でも、長い熟成年がいるわけではない。これまであまり使ってこなかった12~13年熟成ものの原酒がとても良い仕事をしてくれる。そういう面白い発見がありました。
わたしたちブレンダーにとって大切なのは、違いを見つけることのできる“感性”や“目”です。ひとつひとつのブレンドから生まれた小さな反応を見逃さないように、ブレンダー全員で技を磨いています。
もちろん体調管理を怠ることはありません。ただ、人間なので調子の悪いときはありますよね。大切なのは「いつもと違うな」と、自分で分かることです。すこし違うなと感じたら、わたしは「山崎12年」と「響17年」をテイスティングするようにしています。いつも通りに感じられるかどうか、自分で自分をテストするんですね。その日、自分に弱点があると分かれば、ブレンダーどうしで確認しあって、テイスティングやブレンドに間違いがないように徹底しています。
「ウイスキーは自然の力が育むもの」という印象を持っている方も多いかもしれません。5年、10年、30年…原酒は樽の中で熟成を重ねるので、そういった側面も大きいです。
しかし、自然に育まれた原酒には、ふたつとして同じものがありません。「響」の香味や品質を守るには、人の力が不可欠なのです。ひと樽ごとに異なる熟成のピークを見極め、原酒をブレンドして「響」の香味を描き上げるのは、わたしたちブレンダーの技に他なりません。同時に、未来に花ひらく原酒を仕込み、継いでいく必要がありますから責任は重大。その役割を全うするべく、日々研鑽を積んでいます。
“人と自然と響きあう”「響」誕生の源となったその言葉は、
いかにも「響」の真髄を表していますね。
サントリースピリッツ株式会社 ブレンダー室長・チーフブレンダー
1961年生まれ。愛知県出身。84年にサントリー株式会社に入社。白州ディスティラリー(現在の白州蒸溜所)、ブレンダー室を経て、96年に渡英。ヘリオットワット大学(エジンバラ)駐在や、モリソンボウモア ディスティラーズ(グラスゴー)への出向勤務の後、02年帰国。03年に主席ブレンダーとなり、06年よりブレンダー室長を務め、09年にチーフブレンダーに就任。「響 JAPANESE HARMONY」をはじめ、数多くのサントリーウイスキーを手掛けている。
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