食事と愉しむ蒸溜所で愉しむ

こんにちは、加藤愛です。今回は爽やかな味わいが人気の白州の魅力について、白州蒸溜所の小野 武(おの たけし)工場長にお話を伺ってきました!



小野工場長に白州の魅力についてインタビューしました
加藤:小野工場長、本日はよろしくお願いします!工場長の最初の赴任地は白州蒸溜所だったそうですが、当時はどんなお仕事をなさっていたのでしょうか?小野工場長:1989年から9年間、白州におりました。前半は醸造部門におり、後半は貯蔵部門でブレンドや貯蔵熟成などの仕事をしていました。
加藤:すると、白州ブランドが生まれた1994年頃にちょうど、貯蔵部門にいらっしゃったのですね。では、小野工場長が思う、白州の魅力とは何でしょうか?
小野工場長:やはり、すっきりと爽やかで軽快な味わいだと思います。
加藤:なるほど。その白州特有の爽やかさは、どこから生まれるのでしょうか?
小野工場長:ウイスキーづくりには様々な工程がありますが、なかでも幾年もの時間をかけて原酒が熟成を重ねる貯蔵工程で、白州の森の環境が原酒に与える影響が大きいと思います。そのために私たちは白州の環境を守り、この自然の恵みを生かしたウイスキーづくりを目指しているんですよ。

貯蔵庫はウイスキーの育て役
加藤:ウイスキーにとって、「貯蔵」とはどのような意味を持つのでしょうか?小野工場長:よく「生まれと育ち」という言葉で表現したりしますが、この「育ち」の環境が貯蔵にあたります。ウイスキーづくりで大切なのは、まず長期熟成に耐えうる原酒をつくること。例えば「白州25年」なら、25年以上熟成した白州蒸溜所でつくられた原酒をブレンドするのですが、25年以上でピークがやって来るようにつくって行かなければならない。そこは仕込・発酵・蒸溜の役割で、「生まれ」の環境にあたります。長期熟成に耐えうる「生まれ」のよい原酒をいかに育てるかが、貯蔵熟成の役割です。
加藤:「育ち」の環境はどのようにウイスキーに影響しますか?
小野工場長:貯蔵熟成の要となるのが、樽と環境です。先ほどの「白州25年」の話でいくと、もとの原酒がどのようによいものでも、新樽に入れると樽の個性が強く比較的早く熟成が進むため長期熟成には向きません。なので材質、前歴など長期熟成に合った樽を選ばなければならない。また貯蔵庫内でも上段と下段では気温の差があり、上段は早く、下段はゆっくり熟成が進みます。そこで熟成のバランスを考えるならば真ん中に置くのがいい、という風にタイプに合わせて置き場所を変えているのです。
加藤:なるほど樽と置き場所ですね。加えて、貯蔵庫の立地も重要かと思うのですが?
小野工場長:もちろんです。貯蔵熟成している間、樽は寒暖の差で呼吸すると言われています。夏場はウイスキーが膨張して、樽の中の空気が外へ押し出される。逆に冬場はウイスキーが収縮するので、外の空気が取りこまれる、という感じです。そのため貯蔵する環境というのは、中味に大きく影響してくるのだと思います。
加藤:白州蒸溜所のように、森に囲まれた蒸溜所は世界でも稀と聞いています。先ほどのお話からすると、白州特有の爽やかな香味は、森林の中という貯蔵環境に由来するわけですね。
小野工場長:そうです。白州蒸溜所の貯蔵庫は、森の中に100m間隔で配置されているんですよ。そういった環境で育まれる、すっきり爽やかで軽快な味わいというのは、まさに白州らしさだと思います。さらに言うならば、水のよさも白州特有の香味に影響しているはずです。
加藤:南アルプスの天然水ですね!
小野工場長:はい。南アルプスは広大ですが、花崗岩が表面まで出てきているのはこの白州エリアだけなんですよ。花崗岩は地下深くでゆっくり冷え固まった火成岩の一種。そんな硬い岩盤を通って濾過された水というのは、軟らかい水になるんですね。ウイスキーづくりってやっぱり、軟らかくてミネラルバランスのいい水が非常に大切なんです。この水を、仕込・発酵・蒸溜とどんどん濃縮していくわけですから、最後の品質にもつながってくるのだと思います。
加藤:南アルプスを水源とする良質な水と豊かな自然、これらが白州の味わいを形づくっているんですね。話は変わりますが、貯蔵のお仕事で苦労されたことはありましたか?
小野工場長:ウイスキーづくりでは、自然の恵みをいかに生かすかが重要になってきます。そのため結果がなかなか見えてこないというのが、貯蔵工程での難しさですね。原酒は最低3~5年寝かせないと答えは見えてきませんし、ピークはもっと先でないと分かりませんから。



白州蒸溜所の貯蔵庫見学のポイント
加藤:白州蒸溜所では工場見学を毎日開催していますが、見学に来られたお客様にぜひチェックしていただきたい貯蔵庫のポイントを教えてください。小野工場長:やはりこの環境を体感していただく、というのが一番ではないでしょうか。貯蔵庫に満ちる原酒の香り、夏場であればひんやりとした空気の中に感じられる湿度など。森の蒸溜所ならではの空気を感じ取っていただければと思います。
これからの新緑の季節は、景色もすごくきれいですよ。貯蔵庫の中は季節が遅れてやって来るので、外は暖かくて庫内は冷涼というギャップを実感していただけるはずです。
加藤:梅雨入り前にぜひ見学に来ていただきたいですね。
ところで、工場長のお好きな白州の飲み方を教えていただけますか?
小野工場長:やはりハイボールですね。白州のスモーキーフレーバーとソーダは相性がいいと思うんですよ。そもそも樽熟成のお酒というのは、割ると風味が崩れやすいという側面があります。高いアルコール度数で長期間安定していた状態を割るということですから、味が崩れやすい。そのため、長期熟成のお酒はストレートやロックで飲まれることが多いのだと思います。対して白州のスモーキーフレーバーというのは、製麦工程で焚くピートの燻香が麦芽に焚きしめられたことにより生じるもの。「育ち」ではなく「生まれ」の環境に由来するので、バランスを崩すことが少ないように感じます。だから白州はハイボールに合うんでしょうね。
加藤:「白州 森香るハイボール」の美味しさの秘密は、森の中という貯蔵環境だけでなく、それ以前の仕込の工程にも隠されていたのですね!勉強になりました。
小野工場長、本日はありがとうございました!



工場長おすすめのハイボールをランチに
小野工場長のお話からたくさんの学びを得て、白州への愛がさらに深まりました!取材を終えるとさっそく白州が味わいたくなり、白州蒸溜所敷地内にあるレストラン「ホワイトテラス」へ。ちょうどランチタイムということもあり、食事と一緒にハイボールを愉しみます。工場長のおっしゃっていた通り、ほのかなスモーキーフレーバーによって、ソーダとお酒が上手にバランスを保っているように感じられます。すっきり爽やかな飲み口に、澄んだ森の空気、さらには繰り返される森の春夏秋冬を感じて、何とも壮大な気持ちになりました。
インタビューを終えて
今回、小野工場長に貯蔵庫を案内していただきましたが、白州の森という環境の中で幾つもの樽が眠るその空間には、原酒の香りがあふれていました。まさに、樽の呼吸を目の当たりにした気分です。ウイスキーづくりにおける貯蔵とは10年、20年を超える長い年月をかけて、そういった自然の営みを見守り続けること。そしてそこで生じる原酒の個性やピークを見極めて、タイミングよく拾い上げること。人と自然と時間との共同作業なのですね。
私は締切に追われるライターという職業柄、つい駆け足で仕事を片付けてしまいがちでしたが、今回の取材を通して、長期的な視点を持って丁寧に取り組むことの大切さを学んだ気がします。
さて、次回はウイスキーのゆりかごと言われる「貯蔵樽」について、樽職人の安部さんにお話を伺います。お愉しみに!