ピート層をくぐり抜けた仕込水、
伝統を守りつづける製麦工程
仕込水はピート層をくぐり抜けて湧く、蒸溜所近くを流れるラガン川を源とする水を使用。清水ながらピートの影響を受けた色をした良質の軟水で、アイラ島ならではの仕込水だ。
水に浸し終えた大麦を発芽室の床に広げ、発芽を促す。これがフロアモルティング。手間のかかる非効率な仕事といえる。時折モルトマンが木製シャベルですき返し、大麦は扇形に散っていく。空気によく触れさせるためだ。こうしてボウモア独自の麦芽をつくっていく。
フロアモルティングによってほどよく発芽した大麦は、キルン(麦芽乾燥塔)の下にある乾燥室に運び込まれる。下の釜では海風の影響を受けたピートが焚かれ、ピートの熱煙で麦芽の成長を止める。このときに固有の燻香、スモーキーフレーバー(ピート香)が麦芽に浸み込む。
キルンから煙がたなびく様は、いまではなかなか見られない。昔日のスコットランドでは、ごく日常的な風景であったことだろう。
発酵槽は木桶、
蒸溜器はストレートヘッド
製麦が終わると、でんぷん質を糖分に変える糖化工程へと移る。麦芽を粉砕後、温められた仕込水とともにステンレス製のマッシュタン(糖化槽)に投入し、やさしくかき混ぜ、時間をかけてゆっくり濾過し、甘い麦汁を採取する。
麦汁は次の工程、発酵へと向かう。発酵槽はオレゴンパイン材の木桶発酵槽が6基。木桶発酵槽に入れられた麦汁に酵母が加えられ、温度管理に細心の注意を払う。約48時間~62時間をかけて、アルコール分約7%~8%のウォッシュと呼ばれる発酵液(醪/もろみ)を得る。
つづいてウォッシュを蒸溜する。銅製の蒸溜器(ポットスチル)は初溜2基、再溜2基の計4基。すべてチャーミングな小型のストレートヘッド。初溜、再溜による2回の蒸溜によりアルコール分69%の最良の香味成分を抱いたニューメイクだけを採り出し、これが貯蔵熟成へと向かっていく。
高品質の樽、海沿いの湿潤な貯蔵環境
ニューメイクはオークの樽に詰められ、熟成への長い歳月を積み重ねていく。主体となる樽は2種。ホワイトオークのバーボン樽とスパニッシュオークのシェリー樽。バーボン樽70%、シェリー樽30%の比率で使用されている。その他にもボルドーとマデイラのワイン樽、ジャパニーズオークであるミズナラ樽などでも貯蔵熟成をおこなっている。
樽の品質管理はモリソン・ボウモア社が1994年にサントリー・グループの傘下に入ってから格段に向上した。サントリーが長年にわたり研究し培ってきた樽管理技術を導入し、ボウモアのしなやかな香味がより高まったとスコッチ業界で評価されている。とくにシェリー樽の調達においてはサントリーが全面的にバックアップしている。
極めて特長的といえるのが貯蔵庫。3棟の貯蔵庫があるが、スコッチ・モルトウイスキー蒸溜所で最も古い歴史を持つNo.1 Vaults(第1貯蔵庫)は海にダイレクトに面した海抜0メートルに位置している。こういう立地の貯蔵庫で原酒熟成をおこなっている蒸溜所はボウモアしかない。モルト原酒は樽熟成中、潮の香に抱かれながら呼吸しつづける。
こうした貯蔵庫の立地や熟成樽だけでなく、「ボウモア」の香味のすべてに蒸溜所を取り囲む環境が色濃く反映している。ピート層をくぐり抜けた仕込み水、潮風が浸みたピート、フロアモルティングをおこなう発芽室にも、その後のあらゆる工程においても「海」という自然環境の影響が大きい。
ボウモア町という海沿いのひなびた環境の中で、しなやかで気品高く、しかも力強い香味を生む職人たちの技術力は称賛に価する。海と職人が生み出す、世界中のシングルモルトファンを魅了する独特の甘美な洗練は、とても神秘的といえる。