今回の話は長くなるので、最後はバーと法廷の関係に落とし込むことを冒頭でお伝えする。とりあえずウイスキーの用意をしよう。
アメリカが独立国家として歩みはじめた18世紀末、トウモロコシを主原料とするバーボンウイスキーはケンタッキーで産声を上げた。ケンタッキーは、バージニア州のアパラチア山脈を超えた西側のケンタッキー郡が1792年に分離独立してアメリカ15番目の州となったが、最初の独立13州というか、アパラチア山脈の東側は長きにわたってライ麦を主原料にしたライウイスキーが愛されつづけた。
それはウイスキーベースのスタンダードカクテルのなかにライベースのものが意外と多いことからも、かつてライの時代があったことを物語っている。
今回は「ノブクリーク ライ」を友にしながら読みすすめていただきたい。もちろんこれは2012年誕生のまだ新しい酒であり、ビーム家7代目フレッド・ノウが原点回帰のクラフト思想をもとに力強さのあるライウイスキーを目指してつくり上げたものだ。
ライウイスキーといえば軽やかでスパイシーな印象があるが、この1瓶はリッチなコクがある。ライらしいハーブ様のスパイシーな爽やかさをもちろん抱きながらも、バニラ様の甘さや心地よい樽香といった重層的な厚みがある。
ストレートでゆったりと味わっていただきたい。でも、もしこの文章をお読みになってバーへ行く機会があれば、“ノブクリーク ライベースのマンハッタン”をオーダーすることをおすすめする。
粋である。いつもの飲み慣れた「マンハッタン」とはひと味違う深みに驚かされるはずだ。「ノブクリーク ライ」がスイートベルモットとうまく溶け合い、スパイシーさが麗しい心地よさまで高まった豊かでなめらかなコクのある味わいになることを知っている人は、なかなかのカクテル通といえよう。
さて前回、独立国家として歩みはじめたアメリカは、パブリックハウスの充実を急務とした、と述べた。そして1794年、ニューヨークはマンハッタンのブロードウェイに『シティ・ホテル』が建設されてから後、19世紀になるとボストンをはじめとした主要都市にホテルが生まれていくようになる。
『シティ・ホテル』は3階建て。1階と2階にロビー、宴会場、バー、各種店舗、事務所などがあり、3階に73室の宿泊施設があった。当時のニューヨークにおいて最大の建築物である。とはいっても人口はまだ3万人ほどだった。