バーボンウイスキー・エッセイ アメリカの歌が聴こえるバーボンウイスキー・エッセイ アメリカの歌が聴こえる

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ロングドライブ

これによりバーボンウイスキーも西部へ大量に運ばれていくようになる。 1870年に石油事業を起こし、アメリカ初のトラストを結成したドイツ系移民の子、ジョン・ロックフェラーは鉄道を巧みに利用し、あるときは敵対しながら石油王への階段を上った。鉄道によって興隆するものもあれば、こうした時の流れに翻弄されるものもある。

カウボーイ。『ローハイド』に象徴されるように、かつてのハリウッド映画ではある意味、ロマンティックな描かれ方をしているといえるだろう。


牛の大生産地は、かつてスペイン領であったテキサスである。17世紀中頃にメキシコから大量に牛が連れ込まれたといわれている。

南部、中西部、西部で野生化した牛を集め、馬と幌馬車で市場へと何日もかけて移送する。これをロングドライブと呼んだそうだが、この仕事に従事する者たちはカウボーイと呼ばれた。

最初の活躍の場は、1849年からはじまったゴールドラッシュに湧くカリフォルニアであった。人口急増、食料価格高騰などによって、周辺の牧場の牛だけでは事足りなくなる。そこでテキサスからの大移送が決行されるようになった。

ところがゴールドラッシュ熱が落ち着きはじめると供給過剰の現象が起きる。牛の価格も割に合わなくなる。次に目をつけたのが東部市場。今度はテキサスから鉄道が発達している北へのロングドライブである。

行程は過酷この上なかった。大隊となれば3,000以上もの牛の群れを、十人ちょっとのカウボーイたちで移送するのだ。長旅を考慮して交代馬も含めて何十頭もの馬を引き連れてもいた。

一日に進む距離は、ひどい日は数キロ程度。順調でも20キロ超の移動である。草のある地を目指し、牛に草を食べさせ、夜は野宿し、監視役も立てなければいけない。雨の日もある。2,000キロ以上もそんな旅をつづける。

結局、北部の平原でも放牧が成功し、厳冬でも牛が過ごせることがわかり、また南部にも鉄道網が延びたことで、1890年代にはロングドライブ、映画で美化された彼ら、つまり古き良きアメリカの象徴のひとつとされているカウボーイの時代は終焉となる。彼らの旅は長かったが、時代は短かった。


ではバーボンを。強靭なカウボーイたちを讃えて飲むのは、クラフトバーボンの傑作「ブッカーズ」がふさわしい。タフな酒でありながら思いのほか柔らかい。深い熟成感がありながら重くない。フルーティーさのなかにある独特のほろ苦さを感じながら、彼らの生きた時代を見つめていただきたい。

(第30回了)

for Bourbon Whisky Lovers