前回第17回「ビバップ」からのつづきです。
モダン・ジャズのベースを築いた男たちの話をつづけよう。傍らに置くバーボンはジムビーム プレミアム。5年熟成後に独自の木炭濾過を施して雑味を取り除き、洗練を究めた口当たりのまろやかな上質感あふれる味わいだ。できるならばジャズを聴きながら啜り、そしてお読みいただきたい。
マイクに向かい、いたずらっぽい笑みを浮かべたディジー・ガレスピーが「ここでひとつ、珍しい曲をお聴かせしましょう。“チェロキー”です」と言う。
黒人中心のバンドにしては珍しい、白人ドラマーのスタン・レヴィが構える。ひと呼吸おいてレヴィの持つブラシがスネア・ドラムの上を擦りはじめる。両手がめまぐるしく、目にも止まらぬ早さで動き出す。
ビートは迫ってくるような4—4だ。ドラムのビートの下からレイ・ブラウンのベースが浮かび上がる。アル・ヘイグのピアノが重なっていく。するとガレスピーのトランペットとラッキー・トンプスンのサックスがアンサンブル・パートを駆け抜け、ミルト・ジャクスンがヴィブラフォンからシンコペートされた不協和音を叩き出す。
すべてが出そろい、音が盛り上がっていく。客は皆、あまりにも早いそのテンポに息をのむ。
ステージは1945年12月10日のハリウッドはビリー・バーグ。店は満員だった。客席にはハリウッドのあちこちのステージに出演している有能な若手ミュージシャンたちが数多く見受けられた。
ドラマーのシェリー・マン、ジャッキー・ミルズ。ピアニストのテディ・ナポレオン。新進気鋭のトランペット奏者、レッド・ロドニー、トミー・アリスンらの顔があった。お目当てはそれぞれにレヴィであり、ガレスピーであり、いろいろなのだが、誰もが最終的にはバードこと、チャーリー・パーカーを聴きにきているのだった。
それなのにバードは登場しない。ステージがはじまって40分以上が経っているのに、ボスであるガレスピーは、トランペットから高らかなトーンを響かせて何食わぬ顔で演奏をつづけている。客はバードがいないのを不満に思いながらも、『チェロキー』に電気を打たれたようなショックに満たされ、酔いしれている。やがて、かすかに、遠いところからアルト・サックスの音が聴こえ、次第に近づいてきているのがわかりだす。バードだ。
ビリー・バーグの店の入り口からバードが姿を現す。スウェードの上着の下から赤いサスペンダーが見える。首のネクタイは不格好なノットをふくらませ、スタイルは決してお洒落とはいえない。しかしながらアルト・サックスから流れ出るきらびやかな音色は周囲の空気を一変させてしまう。