ピエール・ブーレーズ

リヨン西方のモンブリゾン出身。1945年、パリ国立高等音楽院のメシアンの和声クラスで一等賞を獲得。ルノー゠バロー劇団音楽監督を務め、指揮の経験を積む。創作のほか挑発的な論考、54年に設立したプティ・マリニー演奏会(のちドメーヌ・ミュジカル)を通してトータル・セリアリズムを普及、ダルムシュタット国際現代音楽夏期講習の主要な立役者となる。60年代後半からは指揮者としても活躍し、BBC交響楽団、ニューヨーク・フィルハーモニックなど欧米の錚々たるオーケストラを指揮。EICとIRCAMの設立を主導し、音楽家として初めてコレージュ・ド・フランス教授を務め(76〜95)、2004年ルツェルン音楽祭アカデミー初代芸術監督に就任する(〜07)など、全方位から現代音楽界を牽引した。 『ル・マルトー・サン・メートル』(1952~55)、『プリ・スロン・プリ』(57~62/89)では、音の論理と組織化を極限まで突き詰めつつ、響きには冷厳な抒情を滲ませ、『レポン』(81~84)や『シュル・アンシーズ』(96~98)では美感に訴える艶麗な音響を実現。構想とその具現化を緻密かつ柔軟に思考する姿勢は、数多くの音楽家に指針を与え続けている。

[平野貴俊]

クロード・ドビュッシー

パリ郊外の陶器商の家庭に生まれ、10歳でパリ音楽院に入学するが、ピアノの一等賞を逃し作曲に専心。同音楽院でギローに学び、カンタータ『放蕩息子』でローマ大賞を受賞(1884)。象徴派の芸術家と交流し、バイロイトでワーグナーの楽劇を観て(88、89)、パリ万博でアジアの芸術に接した(89)。長年の構想の末に実現した、オペラ『ペレアスとメリザンド』の初演(1902)により不動の地位を確立。管弦楽曲『牧神の午後への前奏曲』(1891~94)、『夜想曲』(97~99)、『海』(1903~05)、および『前奏曲集』(第1集:09~10、第2集:11~12)をはじめとするピアノ曲では、自然界の微妙な揺らぎや色調を巧みに表現する精緻な語法を開拓。『聖セバスティアンの殉教』(11)や『遊戯』(12~13)の作曲、その他オペラの構想には舞台芸術への関心が表れている。第一次世界大戦勃発後、一時衰えた創作欲を再燃させ、3つのソナタ(15~17)には「フランスの作曲家」と署名した。視覚芸術との接触を重要な拠り所とする独自の美的理念に支えられ、示唆に富む手法により隅々まで彫琢されたその音楽は、後代の作曲家に根本的な語法の刷新を迫り、20世紀後半以降の音楽創作に決定的な指針を与えた。

[平野貴俊]

フランチェスカ・ヴェルネッリ

ピエトラサンタ(イタリア)出身。ルイジ・ケルビーニ音楽院(フィレンツェ)でミリリアーノに作曲、フィウッツィにピアノを学んだのち、サンタ・チェチーリア音楽院修士課程を修了(2007)。IRCAMでの研修(08)を経て、『Play』(10)がメルッキ指揮アンサンブル・アンテルコンタンポラン、IRCAMの委嘱作『Unfolding』(12)がアルディッティ弦楽四重奏団により初演されるなど、フランスを中心に地歩を築く。パリ科学・人文学大学で博士号を取得(21)。ドイツ語圏でも注目され、23年のドナウエッシンゲン音楽祭で世界初演されたオーケストラのための『チューン・アンド・リチューンII』(19~20)はSWR(南西ドイツ放送)オーケストラ賞を受賞した。「音は時間を書くための道具である」と語るヴェルネッリは、12年にIRCAMのイヴェントで対談したマヌリと同様、しばしば長い時間的スパンのなかで音楽を展開する。『チューン・アンド・リチューンII』は、聴取上参照点となる反復的要素を標識のように設けたうえで、標識と標識のあいだに響く音楽を発展させ尽くし、参照点を壊して聴き手の知覚に混乱をもたらすという、ヴェルネッリの好んで用いる手法が典型的なかたちで現れた作品である。

[平野貴俊]

ブラッド・ラブマン

ニューヨーク出身の指揮者・作曲家。ニューヨーク州立大学のパーチェス校とストーニーブルック校で学ぶ。タングルウッド音楽センターでオリヴァー・ナッセンのアシスタントを務めたあと(1989~94)、スティーヴ・ライヒの作品の世界初演をたびたび手がける。2008年アンサンブル・シグナルを設立、その後はヨーロッパの名門オーケストラとたびたび共演し、同時代のレパートリーにおける誠実かつ精確な指揮ぶりが評価されてきた。グラーフェネック音楽祭コンポーザー・イン・レジデンス(17)。イーストマン音楽学校指揮・アンサンブル科教授。

東京交響楽団

1946年創立。文部大臣賞、サントリー音楽賞など、主要な音楽賞のほとんどを受賞。サントリーホールとの共催による「こども定期演奏会」も注目されており、「サントリーホール サマーフェスティバル」には毎年出演し、高い評価を得ている。新国立劇場では、オペラ・バレエ公演を担当。川崎市、新潟市とは提携し、コンサートやアウトリーチを展開している。音楽監督ジョナサン・ノットとともに日本のオーケストラ界を牽引し、音楽の友誌「コンサート・ベストテン」では2022年に『サロメ』が第2位、23年には『エレクトラ』が第1位に選出された。

ゲスト:野平一郎

東京藝術大学大学院修了後、パリ国立高等音楽院に学ぶ。作曲家、ピアニスト、指揮者、教育者として国際的に活躍する音楽家。第13回中島健蔵音楽賞、第44・61回尾高賞、第35回サントリー音楽賞、第55回芸術選奨文部科学大臣賞、日本芸術院賞、第52回ENEOS音楽賞洋楽部門本賞等を受賞。紫綬褒章を受章。現在、日本フォーレ協会会長。仙台国際音楽コンクールピアノ部門審査委員長。モナコ・ピエール皇太子財団音楽評議員。日本芸術院会員。静岡音楽館AOI芸術監督、東京文化会館音楽監督。東京藝術大学名誉教授、東京音楽大学学長。

弦楽四重奏:タレイア・クァルテット

2014年東京藝術大学在学時に結成。ザルツブルク゠モーツァルト国際室内楽コンクール 2015第3位、第4回宗次ホール弦楽四重奏コンクール第1位、大阪国際室内楽コンクール 2023セミファイナリストおよびボルドー弦楽四重奏フェスティバル賞受賞。日本演奏連盟主催「新進演奏家育成プロジェクト リサイタル・シリーズ」オーディションに合格し、東京文化会館小ホールにてリサイタルを開催。東京藝大アートフェス2022においてゲスト審査員特別賞受賞。松尾学術振興財団、榎本文化財団、光山文化財団、業務スーパージャパンドリーム財団、板橋区文化・国際交流財団より助成を受ける。プロジェクトQ第15・16・17・19章に参加。サントリーホール室内楽アカデミー第5期フェローメンバー。NHK音楽番組「らららクラシック」「クラシックTV」「クラシック倶楽部」、FMラジオ「リサイタル・パッシオ」に出演。宗次ホールにて百武由紀、藝大130周年事業「藝大茶会」にて澤和樹、とやま室内楽フェスティバルにて堤剛、第一生命ホールにてクァルテット・エクセルシオ、フィリアホールにて山崎伸子と共演。山崎伸子、磯村和英に師事。

フルート:今井貴子

桐朋学園大学卒業後、2005年より渡仏。国立オルネイ・スー・ボワ音楽院にて世界的フルーティストのパトリック・ガロワの元で鍛錬を積む。11年同音楽院最終課程を一等賞を得て修了。同時にディジョン国立地方音楽院の最終課程を一等賞を得て修了。フランス国内のオーケストラの客演、また室内楽奏者として長きにわたり活動を行う。22年より活動の拠点を日本に移し、バロックから即興、現代作品まで、色彩豊かなパフォーマンスが好評を得ている。

Instagram: @takakoimai_flute
X: @takakoimai_fl
Facebook: @TakakoImaiFlutist
https://imaitakako.wixsite.com/flute/

クラリネット:田中香織

国立音楽大学、バーゼル音楽院音楽大学を卒業。第78回日本音楽コンクール第1位、第2回ジャック・ランスロ国際クラリネットコンクール第2位、第3回トリノ国際音楽コンクール第2位、第3回カール・ニールセン国際音楽コンクール特別審査員賞受賞。ソリストとしてバーゼル響、バーゼル室内管、オーデンセ響、東響、東京フィル、九響などと共演。スウェーデン室内管弦楽団契約首席奏者(2013/14)。元バーゼル音楽院音楽大学講師。10年にわたるヨーロッパでの活動を経て14年秋に帰国、現在ソロ・室内楽・現代音楽の分野で活動中。国立音楽大学講師。

X: @Kaorinette_Kla

マリンバ:西久保友広

東京音楽大学を経て、東京音楽大学大学院修士課程修了。第10回KOBE国際学生音楽コンクールにおいて最優秀賞および兵庫県教育委員会賞受賞。第10回JILA音楽コンクール打楽器部門において第1位受賞。第22回日本管打楽器コンクールにおいて第2位受賞。第10回神戸新聞文化財団松方ホール音楽賞大賞受賞。現在、読売日本交響楽団打楽器奏者。ユーフォニアム奏者、外囿祥一郎とのデュオCD『日本のうた』『プレリュード』(レコード芸術準特選盤)リリース。玉川大学、昭和音楽大学、東京音楽大学で後進の指導にあたる。

ピアノ:永野英樹

東京藝術大学音楽学部入学後渡仏。パリ国立高等音楽院卒業後、パリを中心にヨーロッパで活動する。1995年よりアンサンブル・アンテルコンタンポランのソロ・ピアニストとして迎えられ、ルツェルン音楽祭などで演奏し、好評を博す。日本では、NHK交響楽団、東京都交響楽団など、指揮ではシャルル・デュトワ、井上道義、下野竜也らと共演。村松賞(98)、出光音楽賞(98)、ショパン協会賞(99)を受賞。最近の録音としては、リゲティのピアノ協奏曲やブーレーズのピアノ作品『天体暦の1ページ』がリリースされている。現在もフランスに在住し、ヨーロッパ各地で活躍している。

ヴァイオリン:松岡麻衣子

桐朋女子高等学校音楽科を経て同大学音楽学部演奏学科卒業、同大学研究科修了。インターナショナル・アンサンブル・モデルン・アカデミーにて研鑽を積む。「競楽XI」第2位。アンサンブル・リネア、アンサンブル・インターフェースでヴァイオリニストを務めたほか、アンサンブル・モデルンなどの演奏団体に客演。ダルムシュタット国際現代音楽夏期講習、ザルツブルグ音楽祭、ジューン・イン・バッファロー(アメリカ)、統営国際音楽祭(韓国)ほか、各地の音楽祭や演奏会に出演する。現代音楽を中心に演奏活動を行い、新作初演に多数携わる。東京成徳短期大学非常勤講師。アンサンブル・トーンシーク、フィディアス・トリオ奏者。

チェロ:山澤 慧

古典作品の演奏と並行して現代音楽の演奏や作曲家への委嘱を積極的に行い、チェロの可能性を探求している。2015年より、20世紀以降に書かれた無伴奏チェロ曲のみを集めたリサイタル・シリーズ「マインドツリー」を毎年開催。また21年「邦人作曲家による作品集」シリーズ、23年にはピアニスト鳥羽亜矢子とのデュオで古典に取り組む新シリーズを、それぞれ始動した。ダンサーとの共演など、異分野との協働にも意欲的に取り組んでいる。藝大フィルハーモニア管弦楽団首席チェロ奏者、千葉交響楽団契約首席チェロ奏者。

ソプラノ:溝淵加奈枝

国立音楽大学卒業後、ストラスブール地方音楽院およびシュトゥットガルト音楽演劇大学にて古楽から現代音楽、即興まで幅広く研鑽を積む。奨学生としてロワイヨモン財団「新しい声」、ブリテン゠ピアーズ財団「CAPPA」に参加したのちMaerzMusik、transmediale、ドナウエッシンゲン音楽祭、IRCAMマニフェスト音楽祭などに参加。またダラム大学から招聘されワークショップを行ったり、自身のキュレーションによるアートフェスティバルfesKa を開催したりと多岐にわたる活動を行っている。

エレクトロニクス:今井慎太郎

コンピュータ音楽家。国立音楽大学およびIRCAMで学び、文化庁芸術家在外研修員としてドイツのZKMにて、またDAADベルリン客員芸術家としてベルリン工科大学にて研究および創作活動を行う。ムジカ・ノヴァ国際電子音楽コンクール第1位、ZKM国際電子音楽コンクール第1位などを受賞。2015年に作品集『動きの形象』を発表。近年はアンドロイドの即興歌唱および運動プログラムを開発している。17年にブーレーズ『レポン』、19年にマヌリ『B-パルティータ』の上演を手がける。現在、国立音楽大学准教授。

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