ジョージ・ベンジャミン(1960〜 )

ロンドン出身の作曲家、指揮者。早々に世界的な名声を獲得するも、創作上の方針を作品ごとに明確にしながら1年に約1~2曲を発表するという慎重な姿勢を保持。2000年代後半から着手されたオペラは、早くもオペラ史上に刻まれるほどの成功を収め、世界的名声は揺るぎないものとなった。瑞々しさと透明感をたたえ、決して混濁することない明澄なテクスチュアによって、楽器固有の音色を存分に響かせるベンジャミンの音楽は、現代における「美しい音楽」のひとつのモデルを提示している。
7歳で作曲を始め15歳のとき渡仏、パリ音楽院のメシアンの作曲クラスに入学。約40年間続いたメシアンの教室の最終年度に入学した、「末っ子」(フランス語 benjaminの意)たる渾名の少年は師の寵愛を一身に受けた。その後ケンブリッジ大学キングス・カレッジでアレクサンダー・ゲールに師事(1978~82)。管弦楽曲『平らな地平線に囲まれて』(1979~80)で注目され、ラトルによって初演された『アット・ファースト・ライト(曙光)』(1982)で評価を確立。14の楽器から大管弦楽にも似た豊潤な響きを引きだした本作ののち、純粋な管弦楽曲を世に問うたのは約11年後、『サドゥン・タイム』(1993)によってであり、ここではふくよかな音響に代えて、室内楽的でポリフォニックな断片が継起する。それまでの探究のいわば総合ともいえる、メシアンに捧げられた室内オーケストラのための『3つのインヴェンション』(1993~95)では、精緻に重ね合わされた音の層から清冽な抒情を滲みださせ、成熟の極致を示した。
ブーレーズによって初演された峻厳な響きの管弦楽曲『パリンプセスツ』(2002、タイトルは「重ね書きされた写本」の意)を最後に、創作の中心はオペラへ移る。『ハーメルンの笛吹き男』にもとづく40分ほどの長さの『小さな丘へ』(2006)に続く『リトゥン・オン・スキン』(2009〜12)は毎年、世界各地の名だたる歌劇場で再演が重ねられている。前2作に引き続き世界的劇作家M. クリンプと組んだ『愛と暴力の教え』も2018年に初演され、成功を収めた。
指揮者としても1980年代から活動。2017年にナイトの称号を授与され、18~19年度のベルリン・フィルハーモニーおよびエルプ・フィルハーモニーのコンポーザー・イン・レジデンスを務める。19年2月、ヴェネツィア・ビエンナーレの音楽部門で金獅子賞を受賞。

大野和士(指揮)

1987年トスカニーニ国際指揮者コンクール優勝。これまでに、ザグレブ・フィル音楽監督、東京フィル常任指揮者(現・桂冠指揮者)、カールスルーエ・バーデン州立劇場音楽総監督、モネ劇場(ベルギー王立歌劇場)音楽監督、アルトゥーロ・トスカニーニ・フィル首席客演指揮者、フランス国立リヨン歌劇場首席指揮者を歴任。フランス批評家大賞、朝日賞など受賞多数。文化功労者。2017年5月、大野和士が9年間率いたリヨン歌劇場は、インターナショナル・オペラ・アワードで「最優秀オペラハウス2017」を獲得。自身は17年6月、フランス政府より芸術文化勲章「オフィシエ」を受章、またリヨン市からリヨン市特別メダルを授与された。現在、東京都交響楽団およびバルセロナ交響楽団音楽監督、新国立劇場オペラ芸術監督を務める。

アンドルー・シュレーダー(バリトン)

現在最も活躍しているオペラ歌手の一人であり、モンテヴェルディからジョージ・ベンジャミンまで幅広いレパートリーを持ち、ロイヤル・オペラ、パリ・オペラ座など主要な劇場に主役として多数出演している。フェニーチェ歌劇場の来日公演では『椿姫』でジェルモンを演じ好評を博した。宗教曲やコンサートのソリストとしての活躍も目覚ましく、昨シーズンはクリスチャン・ヤルヴィ指揮のもと、バーンスタイン『Songfest』でライプツィヒMDR管弦楽団と共演、ポツダム音楽祭にてベートーヴェン『交響曲第9番』のソリストとして出演している。

スザンヌ・エルマーク(ソプラノ)

デンマーク出身。コペンハーゲンの王立音楽アカデミーで学ぶ。超絶技巧を要するコロラトゥーラ・ソプラノとして世界各地の主要な劇場に出演している。2016年にはハンブルク州立歌劇場にて世界初演された細川俊夫の新作オペラ『海、静かな海』(演出:平田オリザ)の主役クラウディアを演じ、プロダクションは素晴らしい成功を収めた。また17年には、コペンハーゲン王立劇場でオペラ『ホフマン物語』のオランピアとジュリエッタを演じ好評を博す。16年、ナクソスよりオペラアリアを集めたソロアルバム『ARIER – Ch’il bel Sogno』をリリースしている。

藤木大地(カウンターテナー)

2017年4月、オペラの殿堂・ウィーン国立歌劇場にライマン『メデア』ヘロルド役で鮮烈にデビュー。日本国内でも大きなニュースとなる。また、村上春樹原作の映画『ハナレイ・ベイ』の主題歌(18年10月公開)、同時にメジャー・デビュー・アルバム『愛のよろこびは』(ワーナーミュージック・ジャパン)がリリース。20年4月には新国立劇場の新制作オペラ、ヘンデル『ジュリオ・チェーザレ』にトロメーオ役で出演することが発表された。バロックからコンテンポラリーまで幅広いレパートリーで活動を展開する、日本で最も注目される国際的なアーティストのひとりである。

小林由佳(メゾ・ソプラノ)

国立音楽大学卒業。同大学院修了。二期会オペラスタジオ修了。文化庁新進芸術家海外研修制度にてイタリアに留学。二期会『フィガロの結婚』ケルビーノ、同『ドン・ジョヴァンニ』ドンナ・エルヴィーラ、同『ホフマン物語』ミューズ/ニクラウス、同『ばらの騎士』オクタヴィアン、新国立劇場『ランメルモールのルチア』アリーサ、同鑑賞教室『蝶々夫人』スズキなどに出演し、優れた歌唱力で観客を魅了。コンサートソリストとしてもヴィヴァルディ『グローリア』、ベートーヴェン「第九」、モーツァルト『ミサ・ブレヴィス』などで高い評価を得ている。二期会会員。

村上公太(テノール)

東京音楽大学卒業。新国立劇場オペラ研修所修了。文化庁在外派遣研修員としてボローニャへ留学。ジュゼッペ・ディ・ステーファノ国際コンクールにて、『リゴレット』マントヴァ公爵役を獲得し出演。近年ではシンガポール・リリック・オペラ『ラ・ボエーム』ロドルフォ役、『魔笛』タミーノ役、『サロメ』ナラボート役、『ラ・トラヴィアータ』アルフレード役で出演。国内では新国立劇場、日生劇場、東京二期会などの公演に出演し、30役以上を演じている。C. デュトワ指揮『サロメ』(演奏会形式)では、N響定期をはじめ上海交響楽団公演にも出演。二期会会員。

東京都交響楽団(管弦楽)

東京オリンピックの記念文化事業として1965年東京都が設立(略称:都響)。現在、大野和士が音楽監督を務めている。定期演奏会を中心に、小中学生への音楽鑑賞教室、多摩・島しょ地域での出張演奏、福祉施設への訪問演奏など、多彩な活動を展開。CDリリースは、インバルによる『マーラー:交響曲全集』のほか、交響組曲『ドラゴンクエスト』(全シリーズ)まで多岐にわたる。《首都東京の音楽大使》として、来たる東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に向け、文化芸術の活性化と気運醸成を図っている。
https://www.tmso.or.jp/

マーティン・クリンプ(台本)

S. ベケットらの不条理演劇の流れを同時代の観点から方向づけながら現代社会の病理を抉り出すイギリスの劇作家。ケント州ダートフォード出身。ケンブリッジ大学で英文学を学び、ロンドン南西部リッチモンド地区のオレンジ・ツリー・シアターで活動を開始。1990年、ロイヤル・コート・シアター小劇場で初演された『ノー・ワン・シーズ・ザ・ヴィデオ』が注目を集める。実験的色彩の濃い『アテンプツ・オン・ハー・ライフ』(1997)は20以上の言語に訳された。代表作のひとつ『ザ・カントリー』(2000)は2017年に日本初演されている。ベンジャミンには『リトゥン・オン・スキン』(2009〜12)を挟むオペラ全3作(他に『小さな丘へ』(2006)、『愛と暴力の教え』(2017))に台本を提供、他の作品と同様、権力やジェンダー、歪んだ人間関係を扱っている。現代オペラの演出も手がける演出家K. ミッチェルとは頻繁に協働。『人間嫌い』(1996)でK. ナイトレイがセリメーヌを演じ(2009)、2019年1〜3月にはC. ブランシェット主演で『互いに十分に苦しめあったとき』がロイヤル・ナショナル・シアターで初演されるなど、その作品は世界の演劇界で注目されている。

針生 康(舞台総合美術)

東京理科大学大学院建築学修了。文化庁在外芸術家、ポーラ美術財団の助成により、ロンドン芸術大学、リーズベケット大学院にて博士課程研修。欧州・日本を中心にダンス・オペラなどの舞台美術、空間アートを手がける。主要作品はアクラム・カーンとシルビィ・ギエムの『聖なる怪物たち』、英国王立芸術院『センシング・スペース』ほか。新国立劇場JAPON dance project『雲と群衆』にて英国V&Aベストデザイン展、PQ2015にて特別賞受賞、伊藤熹朔賞新人賞ノミネート。日本人美術家として唯一の2017ワールドステージデザイン銅賞受賞者。
http://www.shsh.be

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