創業間もない頃から力を注いできた研究への取り組みは、挑戦の歴史です。
素材と向き合い、技術を磨き、ポリフェノールをはじめとする成分の探究へ——。
いまある健康飲料は、長年にわたる研究の積み重ねによってもたらされたものなのです。
さまざまな自然の恵みへのこだわりは、どんな想いから生まれたのでしょうか。それは、おいしさの本質を探究する中で育まれた、「日本人の味覚に合う独自の商品を作りたい」という想いからです。例えばワインでは、日本のワインぶどうの父と称される川上善兵衛が岩の原葡萄園(新潟県)を創業し、日本の風土に適したぶどうで美味しいワインを作るために、その地で約1万種の品種交雑の中から誕生したマスカット・ベーリーAをはじめとする日本独自の品種を開発、さらに醸造技術を向上させ日本人の味覚に合うワインづくりに励みました。
原料にこだわるだけでは、おいしい商品は生まれません。原料となる素材をどう生かすかを研究することで、さまざまな技術が磨かれていくのです。その一端を紹介すると、発酵などの醸造技術、いつもおいしい味を提供するための品質評価技術、そして、安全、安心な商品を提供するための安全性評価技術など、多岐にわたります。その技術を磨くために1973年(昭和48)には、研究開発の中核施設として中央研究所を開設。蓄積した基盤技術を生かして独創性のある研究が進められていきます。例えば、お酒づくりに欠かせない酵母。厳選された原料を、どの酵母をどういうふうに用いて発酵すればおいしいお酒が生まれるのか。そしてそのような研究のなかで、酵母はどんな働きをしているのかが徐々に解明されていくことになります。こうした飽くなき探究心と培った技術で、原料から香り、色、おいしさなどの成分へ、より微細な領域に研究対象が広がっていくのです。
原料からさまざまな成分を研究していく中で着目したのは、植物由来の成分であるポリフェノールでした。ポリフェノールは、ウイスキーや赤ワイン、ビールあるいはお茶などに含まれ、その色やおいしさ、品質保持に深く関わっています。例えば赤ワインでは、ぶどうの皮にたっぷり含まれているポリフェノールが、色や渋みなどワインのおいしさを生み出す大切な成分として働いています。またウイスキーは、大麦を発酵・蒸溜したすぐ後では無色透明なのですが、樽で熟成させると樽材からポリフェノールがしみ出し、さまざまな反応によって、美しい琥珀色や奥深い複雑な味わいを生み出します。
1987年(昭和62)、これからの食品事業の未来を開拓していくための基礎研究所が新たに開設されました。そして、その研究所で発案された21世紀に向けた大きな研究テーマのひとつが「健康」だったのです。高齢化が進み、健康に関する意識が高まる中で、特に関心を集めていたのは老化でした。体の老化とは、体内の細胞の酸化、つまり体が錆びていくことも原因のひとつだと考えられていました。
健康を保つには、抗酸化が大きな役割を果たすわけですが、すでにおいしさや色に着目し研究していたポリフェノールには、製品の品質を保つ抗酸化作用があることが分かっていました。そこで、その抗酸化作用に「人の体を守る働きもあるのではないだろうか?」という仮説のもとに、健康をテーマとしたポリフェノール研究が本格的にスタートしたのです。
21世紀の社会問題を予見して、「健康」をテーマにしたポリフェノール研究を進めていましたが、まだポリフェノールといえば渋みや苦みのもとという認識が一般的で、その健康機能は、ほとんど注目されていませんでした。そんな中1994年(平成6)、サントリーと国立健康・栄養研究所が発表した共同研究の成果が、世界の注目を集めます。
赤ワインがよく飲まれるフランスでは、脂肪摂取量が多いにも関わらず、なぜか動脈硬化の患者が際立って少ないという「フレンチパラドックス」といわれる不可思議な謎があり、その謎の答えが、赤ワインポリフェノールの動脈硬化予防効果にあると示した内容です。つまり、赤ワインを飲むとポリフェノールの働きによって、血中の悪玉コレステロールの酸化が抑えられることが判明したのです。これをきっかけにして、日本国内では赤ワインブームが巻き起こるとともに、ポリフェノールの効能研究が大きく加速することになるのです。
「フレンチパラドックス」を解明した後、ポリフェノールの研究を進めることで構造をより細かく分析できるまでに研究は進展。ついに、赤ワインポリフェノールの中に含まれているOPC(オリゴメリックプロアントシアニジン)が、健康成分であることをつきとめたのです。商品化に際して、OPCが含まれる素材(原料)がさまざまある中で、「お茶飲料」としてのおいしさを考慮し選ばれたのはフラバンジェノールでした。フラバンジェノールは、フランス南西部に生育している海岸松の樹皮から抽出されたポリフェノールで、当地では古くから健康に良いと伝えられていました。サントリーは、抗酸化力の強いフラバンジェノールの研究を九州大学や東京女子医科大学と共同で進め、健康維持に特に役立つことを解明し発表。2003年(平成15)、健康維持をサポートする新しいタイプの緑茶飲料として、フラバンジェノールを配合した「フラバン茶」を発売しました。
※フラバンジェノールは登録商標です。
「サントリーウーロン茶」は1981年(昭和56)に発売され、「武夷岩茶(ぶいがんちゃ)」をベースに、日本人の嗜好に合った味わいで親しまれていました。中国では、ウーロン茶は古くから健康に良いとして愛飲されていましたが、具体的にどの成分が有効なのかは解明されていませんでした。サントリーは、1990年代に入ってからウーロン茶ポリフェノールの本格的な研究を開始。最初に解明したのは、ウーロン茶に含まれるポリフェノール(サンウーロン)に虫歯を防ぐ効果があることでした。その後も複雑で数の多いウーロン茶ポリフェノールを研究していく中で、注目したのがOTPP(ウーロン茶重合ポリフェノール)です。緑茶のカテキンはごく小さなポリフェノールですが、OTPPはウーロン茶ならではの半発酵というプロセスを経て、複数のカテキンが結合した特徴的な構造を持っていたのです。そして2002年には、OTPPが脂肪の吸収に関わる酵素を強く抑えることを見出しました。つまり、OTPPの働きによって脂肪の吸収が抑えられ、食品中の余分な脂肪が吸収されずに体外に排出されるメカニズムを明らかにしたのです。この研究成果は、2006年(平成18)にトクホ(特定保健用食品)として発売された「黒烏龍茶OTPP」に結実します。
抗肥満には大きく2つの作用があります。まずひとつは、体に入ってくる脂肪を抑制・阻害すること。そしてもうひとつは、体についてしまった脂肪を分解・燃焼することです。「黒烏龍茶」は、食事と一緒に飲み、食事の脂肪の吸収を抑えるものですが、すでに体についてしまった脂肪に働きかける、肥満に悩む人たちに貢献できる健康成分はないか、新たな探索が始まりました。約1年かけて健康成分の探索を進めた結果、体脂肪を分解することで減らすことができる効能を有し、かつ、お茶としてのおいしさの条件を満たすケルセチンを見出すことができました。ケルセチンは、多くの食品に含まれるポリフェノールの一種で、これまでに多彩な生理作用をもつ成分としてよく知られていましたが、人に対して強い抗肥満作用を示すことは、意外な発見でした。ケルセチン配糖体※が脂肪分解酵素を活性化させることで体脂肪を減らすメカニズムは、サントリーが世界で初めて解明しました。有効性・安全性の検証、申請などを経て、約7年がかりで2013年(平成25)の「特茶」発売に至りました。
※ケルセチン配糖体とは、ケルセチンを酵素反応を利用して水に溶けやすく、体内への吸収効果を高めたものです。