Forum Report

2013年11月1日、「グローバルな文脈での日本」第4回目のフォーラムが慶應義塾大学の三田キャンパスで開催された。このフォーラムは第1回フォーラム“Energy Security and Energy Transition: The Case of Japan and its Global Implications”での議論の延長線上に位置づけられるものであり、今回報告者であるCho-Oon Khong氏(シェル戦略シナリオチーム主任政治アナリスト)には「変動するエネルギー情勢下の安全保障」(“Security in a changing energy landscape”)と題する報告をいただいた。氏の報告は、彼の属するシェルのチームがまとめたエネルギー情勢に関するシナリオに基づくものである。

まず、ここでいうシナリオとはいわゆる予測とは異なるものであり、政治・経済・エネルギー情勢など様々な長期的展望を踏まえたうえでの未来の可能性のようなものである。シェルのシナリオは経済・政治・エネルギーの分野における長期的な展望を占うもので、最新のシナリオでは現在われわれ人類が歴史的な転換点にいると主張している。20世紀前半から石油の存在が非常に重要になり、地政学的なダイナミクスを形づくってきたが、1970年代からは石油価格が劇的なまでに不安定になったことで、エネルギーを取り巻く安全保障問題に関心が集まり、われわれは石油に代わる、時には非常にコストの高いエネルギー源を探し始めた。

シェルのチームが現在持っているのは、「山」と「海」と名づけられた2つのシナリオである。両者は、急激に変化する世界に対して、対照的な行動パターンに基づいたものである。「山」は国家中心型のトップダウン型の変化を想定している。このシナリオでは国家戦略がエネルギーの将来を決定づけることが想定されている。そこではエネルギー安全保障問題が最大の関心事で、エネルギー供給においてはガスが主役となり、主に二酸化炭素の回収と隔離によって気候変動に対応することになる。また諸政府が主体となって、大きな初期投資を伴う長期にわたるエネルギープロジェクトに投資することが想定されている。それに対して、「海」では市民からのボトムアップ型の急激な変化が想定されている。エネルギー面では、急激に需要が増え価格が上昇することで、エネルギー効率を上げる努力が絶え間なく続き、最終的には太陽光発電や再生可能エネルギーが主要なエネルギー供給源になるとされる。太陽光発電は、地域コミュニティレベルでの協力によって導入でき、エネルギー供給を需要増に対応させ、開発途上国に電力を供給できるので、とりわけこのシナリオに適合的である。

より長期的には、すでに差し迫った問題になっている気候変動によって、エネルギー安全保障問題に新たな次元が付け加わる。ここで問題となるのは、徐々に進行する地球温暖化より、むしろ世界中で極端な異常気象が起こっていることから窺える気候不安定化である。これは食糧生産に悪影響を与え、場所によって干ばつや、逆に洪水を引き起こす。このようにエネルギー安全保障の問題は、食糧安全保障や水の安全保障の問題とリンクしているのである。

これら2つのシナリオを対比させると、中国、ヨーロッパ、アメリカや日本など様々な国々の今後35年間の政策対応について考える手がかりとなる。たとえば、中国のエネルギー問題に対する解決法は、中国がどれだけアメリカとの地政学的競争に参加する意欲があるのかということと同様に、都市中産階級の環境汚染への懸念の声にどのように対応するするのかということに依存するだろう。ヨーロッパのエネルギー政策は、環境保護団体と、経済成長と不況からの脱却を重視する勢力との対立を反映するであろう。アメリカ合衆国のエネルギー問題は、シェールガス革命によって国内の天然ガス供給量が増えたことにより大きく変わったように見えるが、アメリカ合衆国が世界秩序を維持するためにどれだけの役割を果たす意思があるのかについては不透明な部分が大きい。

また、これら2つのシナリオは、日本の原子力擁護派が原子力発電以外に選択肢がないと主張するのに対し、国民の間には反原子力発電のムードが高まっていることを踏まえると、今後の日本のエネルギー政策を占う上でとりわけ有益であろう。

サマリー:飯田連太郎