Forum Report

2012年12月17日、「グローバルな文脈での日本」の最初のフォーラムが東京の国際文化会館で開催された。そこでは "Energy Security and Energy Transition: The Case of Japan and its Global Implications" をテーマとして議論を行った。

2011年3月の福島原子力発電所での事故後、日本はエネルギー政策の見直しを迫られている。日本のエネルギー政策のあるべき姿を短期的、長期的視点から議論しつつ、同時に世界は日本の試みから何を学べるのかを考えた。カナダからバーツラフ・シュミル氏(ウィニペグ・マニトバ大学環境学部特別教授)を、日本からは広くエネルギー政策に関わってきた、田中伸男氏(日本エネルギー経済研究所特別顧問)を招いた。それぞれの報告の後、参加者によって、先進国が完全に原子力エネルギーから脱却することは可能なのか、ドイツでは市民が脱原発のために高コストの代替エネルギーを進んで受け入れているが日本ではどうか、「原発ゼロ」に反対する自民党が選挙で勝利した背景など、日本のエネルギー政策の現状と課題について検討した。

報告の詳細と質疑応答については、以下のファイルをご覧ください。

バーツラフ・シュメル
バーツラフ・シュミル

Final Report

 第一の報告は、エネルギー源の移行についてバーツラフ・シュミル教授(マニトバ大学)により行われた。シュミル教授は、報告の要点を「ゆっくり急げ」(festina lente)との簡潔なラテン語にまとめる。現代文明は一定地域に過剰な人口が密集することを特徴とするが、そのために豊富な電力供給を必要としてきた。そして、こうした事情に従ってエネルギー供給構造を築いてきたことは自然であり、化石燃料(石炭、石油、天然ガス)にも多くを依存してきたのである―エネルギー密度の高い化石燃料は、調達や輸送、そして利用可能な形に変えることが容易である。また原子力発電や水力発電に比べ、化石燃料の既存のエネルギー・インフラも効率的である。しかし、整備にコストがかさむこのインフラを、太陽発電や風力発電など環境にやさしい代替エネルギー向けに再構成、代用することは容易ではない。セザール・マルシェッティのエネルギー代替モデルによれば、一次エネルギー源は、あるものから別のものへと段階的に変化し続けるとされるが、エネルギー・インフラは構築にコストがかさみ、他への転用も難しいため、複数のエネルギー源が併用されるのが実情である。

 日本のような先進国は多様なエネルギー源を確保してきた。つまり、社会的に環境問題への意識が高まりながらも、技術上の問題に制約されつつ、伝統的エネルギーと代替エネルギーを併用してきたのである。結局、もっとも重要な問いは、我々が今日のエネルギー供給の水準を維持しえるか否かではなく、とりわけ環境的代償を払ってまで利用するエネルギーのすべてが必要なのかどうかにある。これには「すべてが必要というわけではない」と答えられる。一定の閾値を超えると、エネルギー消費の増加は幸福度の向上には関係しなくなる。今日より少ないエネルギー消費、あるいはより環境にやさしい代替エネルギーによっても、自分たちで満足できる生活水準を維持しえるのである。ただ、こうした方向へは「石橋を叩いて渡る」べきである。すなわち急激な移行は失敗への近道だといえる。例えば炭素税を導入し、燃費効率のよい軽量な自動車を使用するといった、比較的コストの低い方策から始めていけば、地に足のついた移行を大過なく果たせるであろう。

●バーツラフ・シュメル
ウィニペグ・マニトバ大学環境学部特別教授

 
田中伸男
田中伸男

 第二の報告は、「ポスト・フクシマ」の日本のエネルギー戦略について田中伸男氏(日本エネルギー経済研究所特別顧問)によって行われた。今日のエネルギー安全保障は、化石燃料に留まらないエネルギーの持続可能かつ安定的な供給を達成する戦略を視野に入れねばならない。とはいえ、向後数十年、石油、石炭、ガスは依然主要なエネルギーであり続けるだろうし、先進国、開発途上国ともそれらに厚く投資し続けてもいる。日本がエネルギー安全保障戦略を策定するにあたっては、こうした世界的趨勢を考慮に入れる必要がある。

 他方、オイルサンド、オイルシェール、NGL、GTLなどの非在来型石油やガスの国内産出が増えるに従い、じきにアメリカは、少なくとも短期間は「エネルギー的自立」を実現するだろう。そして国内での安価なエネルギー供給に応じてアメリカの国内市場も拡大すると思われるが、これにより、隆盛を続ける中国などから先進国へ雇用機会が回帰するといった変動がグローバル経済にはみられることになろう。とはいえアメリカ以外の先進国は中東の石油に多く依存し続けるだろうし、結果として中東は、国際的なエネルギー供給の面で依然重大な役割を有し続けると思われる。イラク再建やホルムズ海峡周辺の危機に備えるという重責のほとんどを担うアメリカは、安定的な中東から主要な利益を持ち出す同盟国からの支援をますます必要とすると思われる。

 日本にとっては、エネルギー供給の多様化を実現し、石油への過大な依存を極力避けるのが賢明といえよう。石油へ過大に依存すれば、中東で起こりうる危機(例えばイランをめぐる危機)に対し極端に脆弱にならざるをえないからである。もちろんロシアの天然ガスの購入は有力な選択肢の一つだが、代替エネルギーが不足する「ポスト・フクシマ」の日本は、こうした天然ガスを割高で輸入しているのが現状である。したがって、原子力発電所のうち少なくとも数機は再稼働させる必要がある。日本をはじめ先進国が再生可能エネルギーのインフラを新たに構築する間、原子力発電という形で代替エネルギーを使用できるようにしておくことで日本の対外交渉力は強まるだろうし、費用効率の良い電力供給も可能となる。以上のとおり、日本の長期的なエネルギー安全保障の現実を考慮せずして、単に内政的理由をもって原子力発電からフェードアウトしてしまうことは誤りなのである。

●田中 伸男
日本エネルギー経済研究所特別顧問

サマリー:李承赫(林晟一訳)

報告書