ヨミウリ・オン・ライン 2015.12.9日付掲載
国内のクラシック音楽界は、華やかな話題に乏しい1年だった。
だが、来日した海外の有名オーケストラでもチケット販売が振るわない状況の下で、果敢な現代作品の公演など志の高い挑戦もあった。
指揮者の小沢征爾ら人気面も抜群な実力者が、体調不良で満足な演奏活動ができず、ファンには寂しいシーズンとなった。自らの名前を冠して初開催となった「セイジ・オザワ松本フェスティバル」(8~9月)は、小沢が腰の骨を折るけがで、目玉だったオペラ公演を降板。期間中に復帰したが、万全の演奏が待たれる。ピアニストの中村紘子はがん治療に専念し、演奏活動を長期休止した。
開催が集中した最高峰の国際音楽コンクールでは、日本勢は健闘の域にとどまった。5月のエリザベート王妃国際音楽コンクール(バイオリン部門)で毛利文香が6位。10月のショパン国際ピアノコンクールでは本選進出の小林愛実が入賞を逃した。いずれも栄冠は韓国人で、国内でも若手育成などに手厚い施策を求める声は強まっている。
その中、創設30周年を迎えた10月の「国際オーボエコンクール・軽井沢」で、荒木
一方、国際的な名手を輩出してきた「神戸国際フルートコンクール」を巡り、神戸市が10月、公費投入の打ち切りを表明。大口の寄付のおかげで存続されるが、文化振興の上で重い課題を突きつけた。
演奏会は、海外組では、9月の英国ロイヤル・オペラの「マクベス」「ドン・ジョヴァンニ」が豪華な歌手陣で観衆を圧倒。2月のクリスティアン・ティーレマン指揮、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団なども充実した演奏だった。
国内組で拍手を送りたいのは、集客が難しい現代曲での壮大な試みだ。夏のサントリー・サマーフェスティバルのツィンマーマン「ある若き詩人のためのレクイエム」(大野和士指揮、東京都交響楽団)は、約200人の大編成で日本初演にこぎ着け、様々な意味で衝撃的だった。10周年の「ハクジュ ギター・フェスタ」(8月)では、デュオの魅力を根付かせた荘村清志と福田進一の功績を特筆したい。
4月のマレク・ヤノフスキ指揮、NHK交響楽団のワーグナー「ワルキューレ」や、指揮者ジョナサン・ノット率いる東京交響楽団の多彩な演目は聴き応えがあった。読売日本交響楽団のワーグナー「トリスタンとイゾルデ」(9月、シルヴァン・カンブルラン指揮)は鮮烈な印象を残した。
世界が注目した話題では、6月、ベルリン・フィルの次期首席指揮者にロシアのキリル・ペトレンコが決まった。12月には、古楽演奏を先導した指揮者のニコラウス・アーノンクールが引退を表明した。国内では、学校での吹奏楽熱の高まりを受け、精華女子高(福岡市)のデビューCD「熱血!ブラバン少女」が3月、日本ゴールドディスク大賞のクラシック部門を受賞し、話題を集めた。
1月に亡くなったオペラ歌手のエレナ・オブラスツォワが惜しまれる。2月にピアニストのアルド・チッコリーニが死去した。(岩城択)
2015年12月09日 11時15分 Copyright c The Yomiuri Shimbun