7月4日(土)(第54回)の指揮(しき)者は、2011年のブザンソン国際(こくさい)指揮者コンクールで第1位(い)にかがやき、もっとも期待されている若手(わかて)指揮者の垣内悠希(かきうちゆうき)さん。今回は4月公演で演奏されたバッハ、モーツァルト、ベートーヴェンといった古典(こてん)・バロック時代につづく、シューベルトやメンデルスゾーンなどのメロディが美しいロマン派(は)の前期の曲を取り上げるんだ。垣内さんに教えてもらった、このコンサートで演奏する曲のききどころや、こども定期演奏会に向けてメッセージを紹介(しょうかい)するね。
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今回のこども定期演奏会では、ウェーバー、リスト、メンデルスゾーン、シューベルトの作品を取り上げられますね。
「古典派からロマンティックが始まる一番面白い時代だと思います。本当のロマン派に入っていく、僕の好きな時代です」
まずはウェーバーのオペラ「魔弾(まだん)の射手(しゃしゅ)」序曲(じょきょく)。
「ウィーンでオペラの勉強をしましたが、ドイツ・オペラにおいて『魔弾の射手』は、ロマン派オペラの幕開(まくあ)けを告(つ)げる金字塔(きんじとう)のような特別(とくべつ)な作品です。これがなければ、ワーグナーやシュトラウスのオペラはなかった」
次はメンデルスゾーンの序曲「フィンガルの洞窟」です。
「メンデルスゾーンはバッハを再(さい)発見した人ですが、バッハの得意(とくい)としたバロック的(てき)な構造(こうぞう)の中でどうロマン的な表現(ひょうげん)を作るのかを考えていました。序曲「フィンガルの洞窟」は描写的(びょうしゃてき)ですが、ここがこういう場面という風に聴(き)いてもらいたくて書いているとはぼくは思わないんですよ。メンデルスゾーンがそこで受けたショックや感動を伝(つた)えたくて書いている。ですからこの曲でも、波かどうかよりも、ざわつきが伝わってほしい。音楽は感情(かんじょう)とどうリンクするかが大切です。」
リストのピアノ協奏曲(きょうそうきょく)第1番では金子三勇士(みゆじ)さんと共演(きょうえん)されますね。
「金子さんとはチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番で共演していて、今回が2度目になります。音楽に真摯(しんし)な方で、好印象(こういんしょう)を持ちました」
最後(さいご)はシューベルトの交響曲(こうきょうきょく)第7番『未完成(みかんせい)』第1楽章を取り上げられますね。ウィーン在住(ざいじゅう)の垣内さんにとって、ウィーンの作曲家シューベルトとは?
「シューベルトは一番尊敬(そんけい)している作曲家です。最近(さいきん)になってシューベルトの偉大(いだい)さがますます分かってきました。もちろん、ベートーヴェンはすごいです。既成(きせい)のものをこわし、新しいものに挑戦(ちょうせん)するエネルギーと強さを持っていました。でも、ベートーヴェンのすごさは言葉で説明(せつめい)できます。一方、シューベルトの才能(さいのう)は、自然(しぜん)にわきでる泉(いずみ)のようなもので、自然にわきでてきた音楽の美しさを言葉で説明(せつめい)することはできません。だからよけいにすごいとぼくは思います。そしてその自然さをそのまま再現(さいげん)するのが演奏(えんそう)家にとってむずかしい。『未完成』には晩年(ばんねん)のシューベルトのむずかしさがあって、山登りだとしてもどこに頂点(ちょうてん)があるのかわかりにくく、長く続(つづ)く音楽のなかで、緊張(きんちょう)感を持ちながら自然な形でもっていけるか、調性(ちょうせい)の変化(へんか)の面白さをいかに作為的(さくいてき)にせず作るか、苦労(くろう)します」
こども定期演奏会に向けてメッセージをお願いします。
「ウィーンに暮(く)らしていて、鳥の声が聞こえたとき、一番音楽を感じます。ベートーヴェンの『田園交響曲』で聞こえてくるまんまの鳴き声が聞こえてくるのです。静(しず)けさの中で耳を澄(す)ませるというのはとても能動的(のうどうてき)な行為(こうい)です。演奏会では耳を澄ませることを知ってもらえたらいいな。耳を澄ませることだけをやってもらえればいいと思います。プラハのチェコ・フィルの演奏会でインバル先生の指揮するマーラーの交響曲第6番を聴(き)いた時、先生が中学生くらいの生徒(せいと)10人ほどを引率(いんそつ)して連(つ)れてきていました。すごいなと思いました。チェコ・フィルのおじさんたちがウーンと言って汗(あせ)かきながら必死(ひっし)の形相で弾(ひ)いているのを見たら、その体験(たいけん)は絶対(ぜったい)に残(のこ)るだろうなと思いました。"すばらしかった"でなくてもいい、"よく分からなかった"でもいい、何か記憶(きおく)に残ってほしい。こども定期演奏会が一人でも多くのこどもたちに何かが残る演奏会にしたいし、そのためにがんばりたいと思います」
「演奏会では、耳を澄ませることを知ってほしい」」山田治生(はるお)(音楽評論(ひょうろん)家)インタビューより
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今回から開演(かいえん)前の10時40分から、楽器(がっき)のこと、ホールのこと、コンサートの作り方などについて、オーケストラやホールのスタッフがわかりやすくお話してくれる「プレトーク」(約(やく)10分間)が始まります。それから4月の回に応募(おうぼ)してくれた中から選(えら)ばれたおともだちが、サントリーホールのスタッフとなってみんなをお出迎(でむか)えしてくれるよ。ぜひ注目してみてね。