ステージマネージャーという名前は、あまり聞いたことがないかな。もし君がオーケストラのコンサートをホールに聴(き)きにきたことがあったとしても、お仕事している姿(すがた)をみかけたことはないかもしれないね。でも指揮(しき)者や演奏(えんそう)家が舞台(ぶたい)に登場するときや演奏が終わって舞台袖(そで)に戻(もど)るとき、また拍手(はくしゅ)喝采(かっさい)を受けてアンコールで戻ってくるときに閉(し)まっていた舞台袖の扉(とびら)がサッと開くのは見たことがあるかな?これはステージマネージャーが客席(きゃくせき)や演奏家たちの様子をみながら、ちょうどよいタイミングを見計らってやっていることなんだ。コンサート中はいつも舞台裏(うら)にいて、コンサートがうまく進むように一番五感を研(と)ぎ澄(す)ませている人なんだよ。
コンサートのかなり前からステージマネージャーの仕事は始まっている。どういう曲を演奏するか、休憩(きゅうけい)はどれくらいか、出演(しゅつえん)者はどれだけで使う楽屋をどうするか、舞台の配置(はいち)や照明(しょうめい)はどうするかなど、たくさんのことを確認(かくにん)して一枚(まい)のシートにまとめて、関係(かんけい)する人たちに連絡(れんらく)しておくのは大事なお仕事だよ。コンサートの当日は、リハーサルの前から椅子(いす)や譜面(ふめん)台をならべるのもステージマネージャーの仕事だけど、ただならべるだけではないんだよ。演奏する曲によって使う楽器(がっき)は違(ちが)うから、どういう楽器をどういう順(じゅん)に並(なら)べるかきちんと頭の中にいれておかなければならないし、指揮者がどのように見えるか、譜面台の高さや角度はどれくらいがいいか、となりの奏者(そうしゃ)とどれくらい離(はな)れていたらよいか、その時の状況(じょうきょう)に応(おう)じた対応(たいおう)が必要(ひつよう)なんだ。ピアニストによって舞台のどの位置(いち)にピアノを置(お)くかも違うから、毎回その位置を測(はか)って記録(きろく)しておくんだ。リハーサルの後、本番に向けて変更(へんこう)になることもあるし、たくさんの経験(けいけん)と細かな心配りが必要な仕事だね。指揮者や演奏家が気持ちよく演奏に集中できる、ということはお客様にとってもいい演奏が楽しめるということだから、コンサートの成功(せいこう)の鍵(かぎ)を握(にぎ)っているといってもいいお仕事だね。
サントリーホールで15年近く、オーケストラでの経験を加(くわ)えると43年以上(いじょう)ステージマネージャーをしている猪狩(いがり)光弘(みつひろ)さんにお仕事について聞いてみたよ。
ステージマネージャーをしていてうれしかったことはなんですか?
演奏家が気持ちよく演奏することができ、お客様も満足(まんぞく)な表情(ひょうじょう)でコンサートを聴いている様子を感じられるときが何よりうれしいよ。
ステージマネージャーのお仕事で一番大切なことはなんでしょう?
演奏家が音楽だけに集中できるよう環境(かんきょう)を整えるのが何より大事。特(とく)に初(はじ)めてサントリーホールで演奏する人だと、より細かく気を配ってリラックスして演奏に集中できるよう自分の長年の経験から最大限(さいだいげん)の努力(どりょく)をするようにしているよ。
では、どういう人がステージマネージャーに向いていると思いますか?
音楽が好(す)きという気持ちが一番大切だよ。相手の気持ちになって考えることができる人がステージマネージャーには向いていると思うね。
舞台裏に五感を研ぎ澄ませて見守っているステージマネージャーがいることを知ってコンサートを聴くと、いままでと少し違った風に感じられるかもしれないね。