2025.04.14
潮上 史生│世界に誇れる日本ワインを目指して。サントリー 登美の丘ワイナリーのつくり手の情熱

サントリーのものづくりの現場へ訪れて、つくり手たちのこだわりを紹介するシリーズ企画「ものづくりの現場から」。第5回目は、豊かな自然に囲まれたサントリー 登美の丘ワイナリー(以下、登美W)。ぶどう栽培から醸造、瓶詰め、熟成と一貫したワインづくりは100年以上に及びます。ぶどう畑の管理を担う潮上 史生さんに話を聞きました。
※この記事は、サントリーグループの社内報『まど』2025年1月号から転載しています。記事内の所属および役職等は取材時のものを使用しています。
Q. 潮上さんの業務への「こだわり」について教えてください。
ぶどう畑の管理を担当しています。栽培に携わるチームメンバー一人ひとりにどのような作業をしてもらうか業務設計し、指示を出す仕事です。
農作物であるぶどうは、品種、栽培方法、畑や樹のコンディション、天候などさまざまな要因で出来が左右されるため、その時々の状況を踏まえてやるべきことを判断し、各メンバーにはなぜその作業を行うのか、背景や目的も含めて理解してもらうことが欠かせません。そのためにも、過去からの経緯、現在の畑や樹の状態、目指すぶどうの品質イメージに至るまで、丁寧に伝えられるよう心掛けています。
Q. 今後の目標は?
昨年、登美Wで栽培した「甲州」というぶどう品種でつくった「SUNTORY FROM FARM 登美 甲州 2022」が世界的なワインコンペティションで最高位賞を受賞しました。しかし、私はこれをゴールだとは考えていません。登美Wが甲州に本気で注力し始めてから約10年。甲州のベストな栽培方法は今なお模索中で、さらに美味しいワインを目指せると信じています。
高品質なぶどうづくりに近道はありません。これからも日々の作業を大切に積み重ね、サントリーの祖業であるワインの魅力を世界中に伝えていきたいです。そして私が先輩方から受け継いできたように、後輩たちにも良い畑と樹と栽培ノウハウを引き継いでいきたいと思っています。
「登美 甲州」を生むぶどうづくり
1:畑の区画選定・ぶどうの系統選択
登美Wでは斜面の向きや傾斜、標高、土壌などが異なるさまざまな区画からそれぞれのぶどうの品種に適した畑を選んでいます。特に注力する甲州については、水はけや風の通りが良い区画の畑を厳選しています。また、多層的な味わいを実現するためには、ぶどうの多様性が重要です。同じ甲州でも個性が異なる複数の「系統」があり、求めるワインの味わいを目指してつくり分けています。
広大な土地にさまざまな条件ごとに分けられた50以上もの区画があることが登美Wの大きな強み
2:仕立て・栽培管理
ぶどう栽培では、頭上に枝葉を張り巡らせる「棚仕立て」と、枝を垂直に伸ばし、列のように植える「垣根仕立て」の主に2種類の仕立て方法があります。成長力の強い甲州は広々と育てられる棚仕立てで栽培することが一般的ですが、私たちはより凝縮感のある果実を求めて、甲州では難しいとされる垣根仕立てでの密植栽培※ にも挑戦しています。
※密植栽培:面積あたりの樹の本数を多くし密に植える栽培手法
棚仕立ての畑。収穫時期の前にはぶどうに日光が良く当たるよう、ぶどうの周辺の葉のみ取り除く
垣根仕立ての畑。棚仕立てと比べて樹1本あたりの房の数が少なく房自体も小さいが、風味が凝縮したぶどうが期待できる
3. 収穫
完成したワインをイメージしながら畑で徹底した選果を行い、完熟したぶどうのみを収穫します。糖度だけでなく、成熟と共に現れる甲州特有の凝縮した柑橘や桃のようなアロマ、そして酸味のバランスがピークに達するタイミングを、数値の分析に加えて実際に食べることでも見極めます。区画内はもちろん、樹の中で完熟した房だけを選び、さらに粒単位での選果を行います。
収穫のタイミングは、栽培のみならず醸造に関わるメンバーも共に畑に出て決める
甲州で目指した「世界に誇れる日本ワイン」
約10年前、登美Wは「日本固有品種の甲州で世界に誇れる日本ワインをつくる」という目標を掲げ、醸造技術に頼ることなく、原料ぶどうの品質で勝負することを決断。畑を選び樹を植えることから始まった挑戦は試行錯誤の連続でした。しかし、その努力が実を結び、昨年ついに「SUNTORY FROM FARM 登美 甲州 2022」が「デキャンター・ワールド・ワイン・アワード※ 2024」で最高位賞「Best in Show」を受賞するに至りました。今後もぶどうにこだわり、一層の美味品質を目指していきます。
※デキャンター・ワールド・ワイン・アワード:イギリスのワイン専門誌「デキャンター(Decanter)」が毎年開催している世界最大級のワインコンペティション
ソムリエやメディアに甲州の魅力をPRするロンドンでのイベント「Koshu of Japan」にて。つくり手自らがワインの魅力を「伝える」活動にも力を入れている(左が潮上さん)
※内容・社員の所属は取材当時のものです。