2025.04.07
新ブランド「マルハイ」で世界を狙う。サントリーが歩むアメリカ市場への挑戦

サントリーは2025年1月、アメリカでRTD (Ready To Drinkの略。栓を開けてそのまま飲めるアルコール飲料の総称)の新ブランド「MARU-HI(マルハイ)」を発売しました。
アメリカでの現地法人設立から、1年後のマルハイブランド立ち上げにまで携わったのが、サントリーホールディングス株式会社SRC北米事業開発部のウミド・オルティコフさんです。アメリカにいるウミドさんに、グローバル市場に本格挑戦するサントリーの想いを伺いました。
アメリカ市場を開拓する
「マルハイ」の誕生
2025年1月、アメリカ・カルフォルニアで新たなRTDブランド(Ready To Drinkの略。栓を開けてそのまま飲めるアルコール飲料の総称)として誕生したのが、サントリーの「マルハイ」です。
アメリカでは近年、若年層を中心にRTD市場が急成長しています。
RTDには、アメリカ市場でシェアが高くモルト(麦芽)を発酵したアルコールベースの「モルトベース」と、日本で広く流通している蒸留酒ベースの「スピリッツベース」の2つがあり「マルハイ」はモルトベースのRTDとしてアメリカ市場に参入しました。
スピリッツベースは酒税が高く、リカーショップなど取り扱い店舗が限られますが、モルトベースは、酒税が安いため価格も手頃で、コンビニやスーパーなどで簡単に購入できるのがメリット。
アメリカ市場への参入を決定したのが、2023年。2024年1月には現地法人設立、2025年1月に「マルハイ」発売というスピードでアメリカ市場への参入を果たしました。
そこには、グローバルのRTD市場でトップを目指すうえで攻略必須なアメリカ市場への挑戦という、サントリーの覚悟と意欲がありました。
「マルハイ」のコンセプトは「シンプルでおいしく、リフレッシュできる味わいで、老若男女が幅広く楽しめるもの」です。それを実現するには、サントリーが長年培ってきた技術が欠かせませんでした。
アメリカで行われた試飲会の様子。「-196」をはじめサントリーのRTD事業で培った品質は多くのアメリカ人に受け入れられた。
ウミドさん:アメリカのモルトベースのRTDは、甘すぎるなど味に課題がありました。そこで、本当においしくて、アメリカ人の嗜好に合うものを追求。競合と差別化することで、アメリカ市場で「サントリー」の存在感を高めたいと考えました。
「飲みやすく自然な味わい」「クセのないフルーティーなフレーバー」を求めて、何度も試作や市場調査を繰り返し、たどり着いたのは日本の「チューハイ」文化をアレンジしたシトラスフレーバーのお酒です。日本らしさを取り入れたインパクトのあるパッケージデザインも、店頭で目を引くおしゃれなものになりました。
ウミドさん:発売してまだ4カ月ですが、予想以上の評判で手応えを感じています。出荷やプロモーション計画を前倒しするほどの反響に、うれしい悲鳴をあげているところです。
「マルハイ」は日本で愛されている柑橘系のすっきりとした味わいと、東京のネオン街をモチーフにしたパッケージが特長。
法務からサプライチェーン構築、採用まで
アメリカ市場参入の立役者
このような短期間でのアメリカ進出を可能にした立役者の一人がウミドさんです。
ウミドさんは、ウズベキスタン出身でありながら、日本、シンガポール、アメリカ、中国など、多様な文化圏で生活した経験を持つ国際人です。そのグローバルな視点を活かし、一橋大学卒業後にサントリーへ入社し、活躍してきています。
ウミドさん:入社時は営業職希望だったのに、配属されたのは経理部門。経理の基礎知識も持ち合わせていない自分が、はたしてこの業務を遂行できるのか、不安を感じていましたが、企業の財務管理を学ぶうちに、経営視点で事業を見る面白さを実感するようになりました。
その後、グローバルでのスピリッツ事業を担うサントリーグローバルスピリッツ社へ異動。ファイナンスマネージャーとして、グローバルでの経営視点や事業計画策定などを経験したことが、アメリカ法人設立にも役に立ちました。
ウミドさん(写真・右)は以前「Makers Mark」をはじめバーボンブランド全般を担当。経理での経験を武器に幅広い業務を経験。
ウミドさん:アメリカではRTDメーカーとしてのサントリーの知名度はまだまだの状況のなか、商品開発と並行して、法人立ち上げ、人材や流通チャンネルの確保など、少数精鋭でやらなければならないことが山のようにありました。
アメリカRTD市場への参入において、特に重要だったのが、流通チャネルの確保です。アメリカでは州ごとに法律は異なりますが、ほとんどの場合一度契約した卸業者を変更できないという法律があり、パートナーとなる卸業者の選定は慎重さが必要でした。
マルハイ発売前に米国スピリッツ協会(DISCUS)を訪問し、アメリカ酒類業界の直近の動きやレギュレーションなどについて会談を行った。
ウミドさん:新規参入のため、さまざまなハードルや困難がありました。
サントリーがどういう会社かを説明するところから始めることも多かったですが、限られた時間のなかで効率的かつ粘り強く交渉を進めた結果、最終的にカリフォルニアを一手に引き受けてくれる優秀な流通業者とパートナー契約を結ぶことができました。
全米最大のビール卸であるお得意先のReyes社チームと、マルハイの発売直後に小売り店にも訪問。
現地法人立ち上げ後、実際にビジネスを始めるまでには、人材確保も重要です。現地で一緒に働く社員の採用を担当し、200人以上の履歴書から候補者を選んで面接する日々が続きました。ほかにも、日本の本社やさまざまなステークホルダーとのやり取りなど、次々に対応することが発生しました。
ウミドさん:少人数でのスタートだったので、どうしてもひとりが何でもやることになります。私が担当していたのは、経理、ライセンス取得、採用・人事、ステークホルダーとの交渉・契約などです。
現地の人材と日本のサントリー関係者、その両方を巻き込んでうまく役割分担することで、短期間でプロジェクトを無事に立ち上げることができました。
国籍が「サントリアン」
アメリカから始まった世界への挑戦
「マルハイ」の発売に合わせて行われたポップアップストア。現地スタッフを含めチーム一丸となってプロモーションを行った。
一見、無理難題にも見えるスピード感での「アメリカ法人立ち上げ」と「市場参入」でしたが、挑戦する文化こそが、サントリーそのものです。さまざまな難題に直面しても、驚異的なスピードで「やってみなはれ」と意思決定がなされ、次のステップへの道を切り開いてきました。
ウミドさん:新規事業の立ち上げは2〜3年かかるのが一般的です。それを1年でここまでこぎつけたのは、サントリーの「やってみなはれ」精神があったからにほかなりません。
2025年のカリフォルニア州での販売を皮切りに、2026年には販売州の拡大を予定している。
ウミドさん:失敗を恐れず挑戦するサントリーの「やってみなはれ」を支えているのが、「サントリアン」というアイデンティティです。私にとって、サントリアンとは「国籍」のようなもの。「やってみなはれ」という共通の価値観が仲間との家族のような一体感を生み、さらなる新しい挑戦の後押しをしてくれています。
サントリーの「やってみなはれ」、技術力という武器を最大限発揮して、「マルハイ」がアメリカ市場を席巻するのが今後の目標です。挑戦はまだスタートラインに立ったばかり。まずはスタートのカリフォルニア州に注力し、その後、販売エリアを広げていきます。「マルハイ」をきっかけに、アメリカのRTD市場におけるサントリーのプレゼンスを高めていきたいですね。
※内容・社員の所属は取材当時のものです。

ウミド・オルティコフUmid Ortiqov
サントリーホールディングス株式会社
SRC北米事業開発部
1986年生まれ、ウズベキスタン出身。一橋大学経済学研究科卒業後、2